弥生の探しもの Vol4

 凄い偶然だけど思いがけずこれ以上は無い素敵な物が視つかるかも知れない。

 何と云う引きの強さよ! ってくらい自画自賛しちゃうわ。

 今日はあたしのラッキーデーなのかも知れない? こんな事って在るのねぇ。

 きっと師匠なら『えにしだよ』って云うわね。

 そういう事ならこれはまさしく必然って言葉がしっくり来るわ。


 さっき遠くに聴こえて来た音が気になった時に『これは何かある』って直感的に思ったのよ。

 あたしの勘も鋭いでしょ。捨てたもんじゃないわよ。

 これでプレゼントは揃ったも同然よね。

 ここで巡り逢ったのもご縁があっての必然なのだから、ご紹介して貰ったお店に早速伺ってみましょ。


 あたしはご紹介状代わりにお店の住所と電話番号が印刷されてる名刺サイズのカードを戴き、遠くない住所だと判ったからこのままお邪魔する事にするの。

 カードの裏には簡単な地図がポップな感じで描かれてる。

 最寄り駅があたしの実家に近いのに少し驚いたけど、燈台下暗しって事なのかも知れないわね。

 ここからだと来た路を戻った方がひと駅分近いけど、折角だし予定通り昂ぶった感情のクールダウンも兼ねて歩く事にしようかな。

 

 電車に二十分乗って最寄り駅に到着すると徒歩十分くらいだから、約三十分でご紹介戴いたお店に到着したわ。

 遠めに視た外観は少し大きな民家をお店にしましたって感じで、老舗の呉服屋さん風の佇まいかな。

 引き戸の出入口を静かに開けてお店の敷居を跨ぐ。



「こんにちは。視させて貰っても良いですか?」


「いらっしゃいませ。どうぞごゆっくりご覧下さい」


「実はこちらの商品を加工されてる工房さんでご紹介を戴いて伺ったのですが、アクリルで出来たタンブラーを探してます」


「そうなんですか。そのお品でしたらこちらです」


「工房で視させて貰った時も素敵でしたけど、完成品はもっと素敵ですね」


「ありがとうございます。このタンブラーは素材のブロックを一つずつ職人の手作業で削り出してるのですが、お彩のグラデーションは素材の時に着色するので、どれも風合いが違って同じものは出来上がらないんですよ」


「そうなんですか。そう説明して貰ってから改めて視るとグラデーションの濃淡が全部違いますね。本当に素敵だわ」


「こちらは四つセットになりますが二つからセットに出来ます。勿論お彩はご自由に選んで戴く事も可能ですよ」


「それは希望通りで願ったり叶ったりです。紅いのと蒼いのをひとつずつ欲しいんです」


「それでしたら、いまここに在るお品を全部並べて選んで戴くのはどうでしょうか?」



 お店にとっては手間のかかるご提案だけど、お言葉に甘えさせて貰う事にしたわ。

 同じものが無いって云われちゃうと全部視てみたくなるじゃない。

 その上で双子ちゃん達が喜びそうな逸品を吟味したいって考えちゃうのは仕方のない事だと思うのよ。


 紅い系統は十個、蒼い系統は七個在ってその中から選ぶ事になったの。

 並べて貰うと微妙なグラデーションの深さや濃淡の違いがはっきり解るし、切子細工のデザインも幾つも在って色々な表情が在るの。

 これは凄く悩むわねぇ。

 だって全部素敵なんですもの。

 これはインスピレーションで決めないとずっと決められない気がするわ。


 同系色ごとに候補を狭めて行って、紅色のような鮮やかなのと少しピンクに近くなった淡い赤。

 透明感のある水色とエメラルドグリーンに近い色の各二種類を最終選考の候補とした。

 視点の角度を変えてみる為に交互に持って眺めたり、光に透かしてみたりと角度を変える度に無意識な感嘆の声が漏れてしまいそうになる。


 う~ん……何とも悩ましいわねぇ……


 やっぱりひとつひとつをじっくり視ると迷ってしまって決められないから、少し下がって遠目からのインスピレーション頼りに決める事にするわ。

 その結果は淡い赤のピンクに近いお品と透明感の在る水色のお品に決めたの。


 セットの特典として豪華な化粧箱に並べて入れて貰えるのも素敵だし、双子ちゃんの仲睦まじい様子を端的に表現してるみたいで想像以上のギフトになったと思うわ。

 お値段の方は子供用として考えたら破格なんだけど、手が出せない程ではなくて安心したわ。

 やっぱり素敵な品物は素敵なお値段と云うのは常だけど、このお品にはそれ以上の価値を見い出す事が出来るから、あたし的なコスパは高評価なの。

 満足感でテンションは上がってるけど、冷静を装いながら会計を済ませてお店の方にお礼を云って後にした。


 お店を出て時間を確認すると夕方より少し前。

 このままお家に帰るのも勿体ない気がして、予定してなかったけど近くまで来たのだから、折角だし実家に寄って行こうって考えに至った。

 鍵は持ってるけど、誰も居ないのに行っても仕方ないから電話して確認しましょ。



「母さん。あたし弥生……うん、そう…………いまね、近くに居るのよ。それで寄って行こうと思って…………そうねぇ。三十分掛からないくらいで着くわよ…………何か買って行く物とか在る?…………そう、分かったわ。それじゃ後でね」



 お買い物も頼まれなかったらケーキ屋さんに寄ってお土産にしようかしら。

 電車に乗って十五分くらいの駅で降りたら、通り道になる商店街で馴染みのケーキ屋さんに寄り道したわ。


 どれにしようかしら?

 父さんはアップルパイかなぁ。

 クリームが苦手だけど、アップルパイはシナモンの風味で好きみたいなのよね。

 母さんはケーキと云ったらレアチーズケーキってくらい一択だし。

 あたしは……どうしようかなぁ。レアとベークドで二種類のチーズケーキも捨て難いけど、被っちゃっても面白くないからショコラケーキにしましょ。


 久し振りに顔を合わせたオーナーの奥様でも在る『お姉さんじゃないお姉さん』と少し立ち話をしてお店を出たわ。

 変な表現だと思うわよね? それには理由が在るの。

 あたしからしたら子供の頃からおばちゃんなんだけど、お姉さんって呼ばないと怒られるからよっ。

 ちょっと可愛いらしいでしょ。ふふ。

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