第3話 機械の完成
「無論、一切口を開けることはなかった。恥ずかしがり屋でな。どうしても歌えと言われれば、ただ歌詞を読み上げるだけだった」
「そっちのほうが注目集めません?」
その言葉は全くボナンス氏の耳には届かない。
「歌は一種のアレルギーでな、ダメなのだよ。そんなだから学校生活は、ずいぶん苦労した。遠い国の外国語の授業で五七五七七の短歌というものがあるそうだが、それも口にはできんかった」
「その『歌』もダメなのですか⁉」
「歌川広重の作品も見られない!」
「まさか、それも⁉」
「うたた寝なんてもってのほかじゃ!」
「うーん、なんか違う話になってきたぞぉ・・・⁉」
そこまで言ってボナンス氏は発明家の手を取りぎゅっと握った。
「無茶を言っているのはわかっている。発明のかかる費用はすべてわしが出す、報酬もはずもう! だから、頼む!この老いぼれの頼みを聞いてはくれまいか、おぬしだけが頼りじゃ!」
そう言われると人の良い発明家は首を横に振ることもできず、「はい」とだけ答えて屋敷を後にした。
「思わずやると言ってしまったが、これはなかなか難しい宿題だぞ。しかしまぁ、人前で歌うのがアレルギーと言われるとな・・・。どうしたものだろうか」
そこから数か月後、発明家の必死な努力で、それは完成した。
「ボナンス様、これがその発明品です。なんとか完成いたしました」
「おぉ! 素晴らしい! やはりそなたに頼んで正解じゃった! 感謝するぞ!」
ボナンス氏は発明家にたんまりと報酬を渡した。
その量に発明家のほうが、
「こんなに受け取ることはできませんよ! これは何でも多すぎます!」
と顔面蒼白になった。
「いや、受け取ってくれ。これは気持ちの大きさじゃ。わしは金を出すことしかできんのじゃ! 多いというなら今後も世界に良い発明をしていってくれ!」
ボナンス氏はなんとか発明家に報酬を握らせ、見送った。
発明家が屋敷を後にし、ボナンス氏は早速自室に閉じこもった。
「こんなに早く完成するとは、流石じゃ! これで、これでわしの夢をかなえることができる。そう思うと笑いが止まらんな」
ひゃっひゃっひゃっひゃ・・と大きく笑い転げると、使用人が扉をたたいた。
「旦那様、どうされたのですか⁉ 大丈夫ですか?」
「ハッ! 何でもない、大丈夫じゃ! ありがとな」
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