第2話 恥ずかしがりやな資産家


「・・・私は何をすればよいので・・・?」


 ボナンス氏はそこでにんまりと笑い、高らかに宣言した。


 拳を突き上げる。


「そこでだ、君にはある発明をしてもらいたい! 楽器ができなくとも作曲できるものを!」





「つまり、勝手に曲を記してくれるものということですか? お言葉ですが、ご自身の中にある音楽を納得のいく形にすること、音をデータにするには、やはり楽器が必要になると思いますが?」




 その言葉を待っていましたと言わんばかりの顔で、一切の間を置かずにボナンス氏は話し出す。



「楽器はできないが、自分の体の使い方はよくわかっておる。自分の体を楽器にして作曲をするのだ」



 ボナンス氏は力強くこぶしを握った。



 発明家は首をかしげる。



「分からんかね? 歌だよ。君には私が歌うことによって楽譜を作れるような物を造ってもらいたい」




 そこまで聞いて発明家はある疑問を口にした。




「それなら作曲家の先生を招いて、先生の前で歌ってそれを書き留めてもらえばいいのではありませんか? その方が早いと思いますが・・・」




 そう発明家が問うと、力説していたボナンス氏の表情はみるみる翳り、大きな体もいくらかしぼんだと感じられるほど小さく委縮してしまった。




 ボナンス氏はため息をつく。



 グラスのワインをグイっと飲んだ。





 そして言いづらそうにゆっくりと口を開いた。




「わしは・・・わしはな・・・、笑わずに聞いてくれたまえよ・・・、わしは人前で歌を歌うのが苦手なんだ・・・。できないのだよ」



 そう口にしたボナンス氏は顔を真っ赤に染め上げた。



「わしは極度の恥ずかしがり屋でな、最後に人前で歌ったのは幼稚園の頃にクラスメートと共に歌った園歌が最後なのだよ」




「・・・そんなことあります? どうやって学校生活乗り切ったんですか。音楽の授業とか」




「無論、一切口を開けることはなかった。恥ずかしがり屋でな。どうしても歌えと言われれば、ただ歌詞を読み上げるだけだった」




「そっちのほうが注目集めません?」

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