第4話 異界の入り口
小一時間走行した頃、マルズバーンの光学カメラが月城の姿を捉えた。距離は約5キロ。彼のすぐ後ろを追跡しているザーラの姿も同時に捉えている。
「そろそろ月城が例の座標に到達する。ホバー走行に切り替えろ」
「了解」
キャラキャラとなるキャタピラ音がゴオオオという排気音へと変化した。タービン音は更に甲高い音域となって車体がふわりと浮いた。それと同時に月城の姿が消えた。すぐ後ろを走っていたザーラの姿も消えていた。空間がぐにゃりと歪んで彼らを飲み込んだのだ。
「全速を出せ。目一杯吹かせ」
「了解」
ベルタが推進用スロットルを前方に押し出すと、マルズバーンが超加速を開始した。シートの背もたれに体が押し付けられる。
「リミッター解除。300キロまで出せ」
「え?」
「つべこべ言わずにやれ。逃げられたら元も子もない」
車速は直ぐに時速300キロまで達した。それでも消失地点まで40秒ほど必要だ。その40秒がとても長く感じる。
「消失地点まで15秒。減速します」
「待て。そのまま突っこめ」
「え? 300キロで?」
「そうだ。スロットルを緩めるな!」
「はい!」
スロットルレバーを握っているベルタの両手はガタガタと震えている。消失地点の数百メートル先にはこじんまりとした岩山が構えている。このまま直進すれば衝突してしまうのだが、私は確信していた。大丈夫だと。
「行けえ!」
岩山に向かって突進していたマルズバーンは突如虹色の光に包まれてぐにゃりと歪んだ。正面のモニター画面もその周囲の計器もだ。そして唐突に全ての機器がブラックアウトした。
「エンジン停止。車両も停止しています。モニター画面もブラックアウト。中尉……どうしますか? 真っ暗で何も見えません」
ベルタの報告だ。確かに何も見えないし、時速300キロで走行していたマルズバーンも停止している。
「ポーラ。動けるか?」
「問題ありません」
ポーラの全身が淡く光り始めた。その明かりを頼りに上部ハッチを開いて外に顔をだした。
「ベルタ、ポーラ。外を見ろ。面白い物が見れるぞ」
「え? 何これ? いったい何なの??」
戦車の外は異界……としか表現のしようがなかった。赤錆びた戦車やトラックなどの残骸。朽ち果てた大型ロボットの腕と指。遠くに見えるの宇宙船の残骸のような巨大な構造物。
異界に取り残されている古戦場なのだろう。そこで蠢いているのは何人もの半透明な女たち。月城はその中の一人と抱き合い、立ったままで性行為に及んでいた。他の女たちは月城の周囲に群がり、彼の背や脚に抱き付いて嬌声を上げていた。
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