第2話 不可解な事件
「遅かったな」
「失礼しました。オートマタを躾けておりましたので」
「その話は聞いている。今回、君に来てもらったのは他でもない。このリリス基地南の砂漠地帯で発生している不可解な事件を解決したいからだ。これは私の所感だが、その為には君が従えているザーラとポーラの力が必要だ」
「はい」
「とりあえずこの報告書を読め。疑問点があれば遠慮せず質問して欲しい」
「了解しました」
ザーラとポーラが必要とは何事なのか。私は早速、その報告書に目を通した。
調査対象は
不審な点は、彼が深夜帯に幾度も外出している事だ。しかも、何もない南の砂漠方面へと向かっているから不可解だった。不審に思った兵士が何度か後を追ったが全て行方不明となった。先日は装甲車と歩兵小隊が出動したのだが、作戦中に通信不能となり装甲車は破壊された。帰ってきた兵士は半数。しかし、彼等は正気ではなかった。
「正気ではない?」
「そうだ。生きて帰った兵士の下着は精液でドロドロになっていたよ」
「精液で?」
「着衣のまま十回以上射精したようだな。皆が記憶障害に陥っていて、何故ああなったのか不明だ」
「被害に遭った兵士は男性だけ?」
「女性兵士は出動させていない」
「その場所は?」
「位置は把握しているが、昼間の捜索では何も見つかっていない。行方不明となった兵士もその装備もだ。また、夜間であっても月城がいないと何もない砂漠でしかない」
「月城大尉は?」
「報告書にある通りだ。彼は何も覚えていないし、深夜外出している自覚も無い」
「なるほど」
「何か、おとぎ話に出てくる妖魔の類に化かされているように思うのだが、その被害が尋常ではない。是非とも解決への糸口を掴んで欲しい。マリアンヌ・バリエ中尉。頼んだぞ」
「了解しました」
確かに不可解な事件だ。オズマ司令の言う通り、おとぎ話にある妖怪に憑りつかれるパターンに似ている。しかし、それらは個人が魔に魅入られてしまうストーリーであり、軍組織に損害が出るような代物ではない。
私は共に送られてきた戦車の状態を確認するため、格納庫へと向かった。
「バリエ中尉だ。動かせるか?」
「あと二時間下さい。タービンエンジンのチェックは終了していますが、足回りを全バラ組み直し中です」
女性の整備兵が対応してくれた。
「武装は?」
「150ミリ砲はそのままです。追加兵装として対戦車ミサイルを8本載せています。対空兵装は全て降ろしています」
「対空レーザー砲もか?」
「はっ! 全て降ろせとの命令です」
「わかった」
「あの? 中尉殿?」
「何だ?」
「私は整備中隊のベルタ・ルーマンです。今夜このマルズバーンで出撃されますよね?」
「多分な」
「私も同行させてください」
「聞いていないが?」
「お願いします。彼……私を裏切った月城を殺したい……」
そう訴えたベルタの顔は真剣そのものだった。
「私にその権限はない」
「どうしてもダメですか?」
「ダメだ」
私の返事にベルタが俯く。私は彼女の耳元でこっそりと呟いた。「どうしてもというなら、戦車の中で寝てろ」と。
「ありがとうございます!」
ぱっと明るい表情を見せたベルタは整備の作業へと戻っていった。
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