第4話 勇者、剣聖にボコボコにされてしまう【ダン視点】

「今日はどこに行くんですか〜〜?」


「今日はな。俺達の勇者パーティーに相応しいメンバーを招待しに行くところだ」


 俺はニーアを侍らせつつ、王都のある場所に向かっていた。


 フローラを追放して数日。口うるさい奴はいなくなったし、ニーアという俺に貢いでくれる奴がいる。とてもいい気分だ。


「あはっ! なるほどですねえ。昨日のダン様の強さを見ればどんな人でも入らせてくださいって懇願するんじゃないですかぁ〜〜?」


「フハハハ! そうだろうそうだろう! 何、俺はとても強いからな! 勇者の仲間になれることを泣きながら喜ぶかもなあ!!」


 俺は聖剣に選ばれた勇者。あの女の支援などなくても、この辺の魔物なら一網打尽にできる。


 ニーナは魔法を使いながら俺のことを後ろで褒め称えてくれるいい奴だ。口うるさいどこぞの偽聖女とは違う。


 そんな俺様の活躍を聞けば、誰もが懇願しながらパーティーに入りたいと言ってくるだろう。


「実際昨日は何人か来たがな。まあ見所なさすぎて全員酒かけて帰してやったがな! ギャハハ!!」


「ひっど〜〜いっ! でもそんなダン様が私は大好きです! 身の程知らずにはそれくらいの制裁は必要ですからね!」


「そうだそうだ! さて……ついたぞ。ここが噂の剣聖がいる道場か」


 王都には巨大な剣術道場がある。


 そこに剣聖という剣の達人がいるらしい。それもかなり美少女と聞く。俺の勇者パーティーに相応しい人物だろう。


「たのもー!! 剣聖というのはどこにいるんだ!?」


「……騒々しいな。道場では静かにしてもらいたいのだが」


 俺は道場の奥から聞こえてきた声の主人を見て、思わず変な笑いがこぼれそうになる。


 とんでもねえ上玉だ! 黒い髪を後ろで一本で結んで、そこから見える白いうなじがたまらねえ!


 身体はボンキュボンっ! うへぇ〜〜あんな立派なもんを持ってるなんてそれだけで勇者パーティーに入れる価値があるぜ!


 凛とした佇まいに、黒い吊り目。それに僅かに尖った耳。


 半森人ハーフエルフっていう奴だ。それならあの見た目にも納得がいく!!


 初めて見たがこんなにも綺麗とはなあ!!


「おいお前! 喜びな! お前を俺様が率いる勇者パーティーに入れてやる!!」


「光栄に思いなさい。ここにいるのは勇者にして第一王子! 勇者ダンのパーティーに入れてもらえるなんて至上の喜びに打ち震えることねっ!!」


「…………勇者? お主のような者が?」


 あまりにも驚いてるせいか状況が飲み込めないようだな。


 ククク、仕方ない。もっとわかりやすく話してやるか。


「そうだ! 王族に伝わる聖剣!! その正統後継者である俺が勇者だ!! お前を俺の仲間にしてやってもいい!!」


「ふむ……。なるほどそれが……。しかしすまない。その話断らせてもらう」


「そうだろうそうだろう! 俺の仲間になることを光栄におも……は?」


 一体なんて言ったんだこいつは?


 こ、断る? どういうことだ!?


「こ、断るだと!? 何を馬鹿なことを言っている!! 勇者である俺の誘いだぞ!? こんな機会二度とないんだぞ!?」


「断る理由は二つだ。一つは礼儀がなっていないこと。この道場は神聖な場。礼の一つしないで上がり込むなど言語道断だ」


 れ、礼儀だと!? 馬鹿な女だ!


 俺に礼儀を払う必要があっても、俺が礼儀を払う必要なんかどこにもないだろう!!


「俺に礼儀を説くだとぉ? 馬鹿な女め!! 俺は勇者だぞ!! お前達が俺に礼儀を払え!!」


「はあ……。ここまで傲慢とはな。そうだな、その傲慢さを見てもう一つ。私は私よりも弱い人間の誘いは受けないようにしている」


「な……に?」


 俺がこの女よりも弱いっていうのか!? 勇者である俺が!


「剣聖の名をもらってからお前のような輩は後を絶えなくてな。私を仲間にしたいなら私から一本取って見せるといい」


「ぎゃ……ギャハハ!! 馬鹿な女だ!! 剣聖だかなんだか知らねえけど、勇者の強さを知らねえとはな!! そう言ったこと後悔させてやるぜ!!」


「ふむ、大声で叫ぶほど強そうには見えぬがな。一太刀だ。お主は聖剣でもなんでも使うといい。私はこれを使う」


 女はそう言って立ち上がり、短刀を俺へと向ける。


 はん! 馬鹿な女だ! そんな短い刀で俺様の聖剣とやりあうつもりなんてな!!


「後から言い訳言っても遅いからな!! 見ろ! これが聖剣の輝きだ!!」


 俺は聖剣に魔力を込める。すると聖剣は光り、刀身が更に伸びる。


 久しぶりに使ったせいか、気がする。まあ気のせいだろう。俺の力が弱まるはずがねえ!


「聖剣の輝き……? その程度の光でか?」


「舐めたことを言ってるんじゃねえ!! 先手必勝!! とりゃああああ!!!」


 俺は聖剣を振りかぶり、女へと突撃する。がら空きすぎるぜ!! 


「太刀筋……走りだし、そして技。何もかもが不出来で弱く、そして拙すぎる。今まで何か?」


「……あ?」


 女が何か訳の分からねえことを呟いたかと思うと、目の前から女の姿が消えていた。


 な、何が起きているんだ!?


「隙だらけだぞ。とてもじゃないが勇者とは思えない拙さだな」


「な、な……い、いつの間にか後ろに回り込んでいるなんて卑怯だぞ!! は、反則だ!!」


 俺はいつの間にか首元に短刀を突き付けていた女に向かってそう言う。


 聖剣の加護がある俺がこんな女の動きを見切れないはずがねえ!! 何か反則をしたはずだ!!


「卑怯なことは何もしていないがな。疑うなら何度でも挑んでみるといい。君の剣は私には届かない」


「ほざけえ!!」


 それから何度も剣を振るうが、一行に当たる気配がない。


 ど、どうしてだ!? なんで俺の剣が当たらねえ!?


「くそっ! くそっ!! よけるな卑怯者!!」


「避けるなか。なら受け止めればいいんだな?」


「……は?」


 次の瞬間、ぐるんと視界が回転する。数秒後後頭部へ痛みが走る。


「きゃあああ!! ダン様になんていうことをするんですか貴女!!」


「何って、受け止めたついでに少し痛い目を見てもらっただけだ。これで実力差がはっきりと分かっただろう?」


 俺はニーナの叫び声と、女の冷徹な声を聞いてようやく自分の状態を察する。


 俺は今、女に聖剣を奪われて投げ飛ばされたのだ。そして、女は見せつけるように俺へ聖剣を突き付けている。


「お引き取りを。せめて勇者を名乗るのであれば聖女を連れてくることだ」


「……は? 何を言っているんですかあ? 私がその聖女なんですけど!!」


「そうなのか……? ふむ。しかしにわかには信じ難いな。我々、森人族エルフには魔力を視る眼がある。お主達の魔力はあまりにも淀んでいて、薄汚い。それでは勇者や聖女を名乗るのは無理があるだろう」


 ま、魔力を視る眼……? そんなのインチキじゃねえのか!?


「それに我々にとっては勇者と聖女は特別な存在でな。その名を騙るということはどういうことか……よく、考えるといい」


 ぞわっと、冷たく鋭い殺気が女から溢れ出す。


 こ、こんなやべえ女と関わっていられるか!! ぐぐぐぐ……こ、ここは撤退だ!!


「く、クッソー覚えていろよ女!! 必ず痛い目に合わせてやるからな!!」


「あ、待ってくださいダン様!! こんな怖い女の前に私を置いてかないで~~~!!!」


 俺とニーナは道場から逃げ出す。そんな俺達の前に投げ飛ばされた聖剣が突き刺さる。


 ひ、ひぃ!!! この女おっかねえ!! 今まで我慢していたけど限界だ!!


 あんな女に二度と近づくもんか!!!




***



「……一体なんだったんだ? 聖剣聖剣言ってたけど、聖剣とはあんなに出来の悪い剣だったか……? 師匠に今度聞いてみるとするか」


 ダンとニーナが道場を去った後。剣聖の少女は一人そう呟くのであった。

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