第2話

 「ねえ聞いた? 一組の沢木幽霊に挨拶しちゃったんだって」

 「うそ本当にいるの? 冗談でしょ」

 「ほんとだって!『もう三日目だ』ってブルブルしてたもん」

 「こわー」

 「はーい、ホームルーム始めるぞー」


 大変なことになった。

 僕が作った六話目の七不思議は広まってはいたものの、実際に被害が出るなんて思ってもいなかった。それがここ数日で数人、挨拶をしてしまったという人が出ている。それだけならまだしも、僕が尾鰭としてつけただけの夢(「頭を探してください」と幽霊に言われる夢)も実際に見ているというのだ。最初は思い込みでそんな夢を見たのかと思ったがどうやら違うらしい。

 僕は昨日、一人目の被害者である一組の沢木に話を聞いた。



 沢木敏彦の話


 なんだよ真面目な顔して。そんなまじになる話しか?はは、死ぬなんて嘘だよな。嘘だよな?お前にいっても意味ないか。俺はおととい旧校舎に行ったんだよ。技術室に用事があってな。その途中でこんにちは〜って声をかけられたから返事したんだよ。それだけ。相手の顔も確認しなかった。先輩の誰かだろと思ったんだ。だけどその夜からあの夢を見るんだ。「頭を探してください」の夢な。不気味だよ。どこ探してもねーし、見当もつかねー。俺まじで死ぬのかな?



 沢木の様子からして嘘は言ってないようだった。だとしたら本当に神田先輩がやっているのだろうか?僕は昼休みに旧校舎に向かった。


 「神田先輩!」

 「おお、坂本くん。こんにちは。そんなに急いでどうしたの」

 「神田先輩、あの」

 「まあ、落ち着いて」

 神田先輩に椅子を勧められて腰を下ろす。いつもの神田先輩だ。人をとり殺すような怪物じゃない。

 「七不思議の六話目って覚えてますか?」

 「あの怖い話だろ。覚えてるよ」

 「あれが実際に起きてるんです」

 「え!なんでまた」

 神田先輩の反応で安心した。やはり犯人は神田先輩じゃなかったのだ。

 「なんででしょうね」

 僕は人心地ついた気持ちで椅子に座り直した。


 その安心が覆されたのはその日の夜のことだった。

 あの夢を見た。


 「頭を探してください」

 「え、神田先輩?」

 「頭を探してください」

 自室にいる神田先輩は同じ言葉をラジオのように繰り返している。

 いつも神田先輩と対峙している時のような安心感や高揚感はなく、ただ焦燥感だけが全身を覆う。なるほどこれは怖い。頭を探さなければ、と謎の使命感に突き動かされながら僕は部屋中をひっくり返して隅々まで調べた。頭はない。


 目を覚ますと汗をびっしょりとかいていた。部屋は当たり前だが整然としたままだ。


 「頭を探してください」

 その声だけが耳に嫌に残っていた。

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