第10話 対価

 戦闘が終わったことを見届けたアレンが魔核などを回収かいしゅうしながらレオナルドに声をかける。

「今日は随分ずいぶん慎重しんちょうでしたね。どうかしましたか?」

 アレンはレオナルドがかたくなっているのを敏感びんかんに感じ取っていた。これまでの訓練から負けるとは思っていなかったが、今日からは二人ということもり、万が一があるといけないため、注視ちゅうししていたのだ。

「ああ、いや、何でもないんだ。さあ、先へ進もう」

 レオナルドは思わず苦笑くしょうしてしまう。本当のことなんて言える訳がない。言えば、またややこしいことになってしまう。回復魔法がかないなんて、なぜそんなことを知っているのかの説明もできないのだから。

「わかりました」

 アレンは返事をしながらもレオナルドの様子に内心首をかしげるのだった。


 それからもレオナルドは慎重に、だが、確実に魔物を倒していった。複数の魔物と遭遇そうぐうしたときなどは、アレンが一体を残し魔物をほふっている。今のところレオナルドには一対一以上はさせるつもりがないからだ。

 これまでは同行している騎士達がやってくれていた魔核や素材となる魔物の部位の回収も、今回からはアレンとレオナルドの二人で行う。これらは冒険者ギルドに売って臨時りんじ収入しゅうにゅうにしているのだ。そのお金は均等きんとう配分はいぶんする。当初、レオナルドは自分は含めなくていいと断ったのだが、成果はきちんと得るべきと説得された。

 最初の頃は売れる部位に関する知識がなく、魔核だけを回収していたためかなり勿体もったいないことをしていたが、今ではきちんとその他も回収している。

 ちなみに、公爵家の騎士として国に対して売ることもできるのだが、手続きが面倒なため、誰からでも買い取ってくれる冒険者ギルドに売っている。ただし、ギルドに所属しょぞくしていない者からの買い取りは所属している者に比べて値段が安くなってしまう。冒険者には誰でもなることができ、様々な依頼を達成し活躍かつやくすることでそのランクが上がっていくシステムだ。だからレオナルド達も冒険者登録は可能だが、していない。冒険者になってしまうと、いざというときギルドの指揮下しきかに入らなければならないからだ。そもそも公爵家の次期当主や公爵家につかえる騎士がわざわざなるものではない。それに買取価格が安くなることはお金かせぎが目的ではないレオナルド達にとってまったく問題がないというのもあった。


 何度目かの魔物との戦闘を終えたときのこと。

「今日はそろそろ終わりにしましょうか」

 アレンの目からは、レオナルドの体力消費しょうひが今日ははげしいため、帰りの体力など少し余裕を持たせて、いつもより早くこの日の実戦訓練を終わらせることにした。

「はぁ……はぁ……。わかった」

 くやしさをにじませながらも素直すなおうなずくレオナルド。自分でもそろそろ限界だとわかるほど消耗しょうもうしていた。

(こんなんじゃ全然ダメだ……!)

 今日くらいの魔物との戦闘ならば、できていた記憶はちゃんとあるのに今日はずっと身体が上手うまく動いてくれなかった。ゲーム知識を得てまだ日も浅く、それから初めての実戦だ。動きが硬くなるのも仕方がないことだろう。それでも少しずつれていくしかない。

(俺はもっと強くならなきゃいけないんだ……!)

 こうして前世の記憶を思い出したレオナルドの初めての実戦はにがいものとなった。


 王都に戻ったレオナルドとアレンは冒険者ギルドへとる。

 そこで、魔核を含めた素材を売り、二人で代金を分ける。今までは四人で分けていたため一人当たりの取り分は単純に倍になった。


 今日は合計八千ベイル。一人当たりにすると四千ベイルだ。慣れてきてからは四人で分けていたのに一人当たりだいたい五千ベイルを超えていたことを考えれば、今日がどれほど少ないかがわかる。

 それだけレオナルドが足を引っ張ってしまったということだ。金額という明確めいかくな事実にレオナルドは余計よけいに落ち込んだ。


 ちなみに、ベイルという通貨つうか単位はこの世界共通のものとなっている。

 王国で流通りゅうつうしているそれぞれの硬貨こうか一枚の価値は次の通りだ。これは他国でも同価値で取引とりひきされている。

 小鉄貨てっかが一ベイル。

 鉄貨が十ベイル。

 銅貨どうかが百ベイル。

 大銅貨が千ベイル。

 銀貨ぎんかが一万ベイル。

 金貨きんかが十万ベイル。

 そしてその上に白金貨はくきんかがあり、これは一枚一千万ベイルだ。白金貨は、余程大きな取引でないとお目にかかることはない。


 一般的な宿やどに一食付で一泊いっぱくするとだいたい三千ベイルする。そう考えると一回の実戦訓練で一人当たりが受け取った金額のおおよその価値がわかるだろう。最大限の安全を確保しているとはいえ、魔物討伐とうばつという命をかけた戦いの対価たいかとしてこれが安いのか高いのか、それは人それぞれかもしれない。


 ただ、レオナルド達にとっては、これはあくまで訓練であり、稼ぐことが本命ではないため、そんなこと誰も気にしていない。


 換金かんきんを終えたレオナルド達は屋敷へと戻り、アレンと別れたレオナルドが玄関げんかん扉を開けるとセレナリーゼが出迎でむかえてくれた。ミレーネも一緒だ。

「お帰りなさい、レオ兄さま!」

「お帰りなさいませ、レオナルド様」

 二人とも笑顔だ。実はミレーネと一緒にセレナリーゼは自室にいたのだが、窓の外からレオナルド達が戻ってきたのが見えたため、サプライズのつもりで出迎えたのだ。ただ、レオナルドにはあまりサプライズにはならなかったが。

 それでも不思議ふしぎなことに二人の笑顔を見たらレオナルドの落ち込んだ心が少し浮上ふじょうした。

「ただいま、セレナ、ミレーネ」

 だからレオナルドも笑みを浮かべて返すのだった。


 それから順調に日々を過ごしていたレオナルドだったが、六月に入ってすぐのこと。勉強を終えたセレナリーゼにメイドが声をかける。

「セレナリーゼ様、お手紙でございます」

 セレナリーゼ宛てに手紙が届いたのだ。

「私に、ですか?………っ!?」

 メイドから手紙を受け取ったセレナリーゼは差出人さしだしにんの名前を見て目を見開いた。


 差出人はこの国の第二王女、シャルロッテ=ムージェストだった。


 ―――――あとがき――――――

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