第4話 義妹

 準備を済ませたレオナルドは、ミレーネの先導で、ダイニングへと向かう。

 ミレーネが扉を開け、中に入るとすでに両親と妹が着席していた。

 彼らは一斉にレオナルドの方に目を向ける。

「おはよう、レオナルド」

「おはよう、レオ」

「おはようございます、レオ兄さま」

 上から順に、レオナルドの父、母、妹の言葉だ。

 父は名をフォルステッドと言い、金髪碧眼の優男といった印象だが、剣術も魔法も実力が高く、引き締まったいい体をしている。

 母は名をフェーリスと言い、栗色の髪に青い瞳で、レオナルドを見る優しげなその表情からわかる通り、おっとりとした雰囲気を醸し出している。

 そして最後に妹だが―――、レオナルドはその最後の人物に目を留め、少しの間固まってしまう。

 プラチナブロンドの艶やかな髪に、紫水晶のような瞳。髪はまだ背が小さいためか、腰の辺りまであり、成長したら絶対に美人になるとわかるほど愛らしい顔立ちをしている。セレナリーゼは三月生まれのため、少し前に十歳になったところだ。

(わかってはいたけど、本物のセレナだ……)

 前世の記憶のせいで、今までとは違った感じ方をしてしまうレオナルド。近い表現だと感動、だろうか。


 ちなみに、ゲームではプレーヤーにわかりやすくするためか、一週間が七日、一か月が三十日、一年が三百六十日となっていた。そしてこの世界もそれは同じだ。

 加えて、実に日本のメーカーが作ったという感じだが、年度は四月開始のため、レオナルドとセレナリーゼは同級生として学園に入学することになる。いわゆる早生まれというやつだ。


 ゲームで判明している通り、セレナリーゼはレオナルドの実の妹ではない。今はまだセレナリーゼがその真実を知らないのはストーリーが進んでから知ることなのでいいが、実はレオナルドはつい最近それを知ってしまった。深夜トイレに行ったときに、偶然フォルステッドとフェーリスが話しているのを聞いてしまったのだ。

 以来、レオナルドはセレナリーゼとの接し方がわからなくなってしまい、ギクシャクしたまま今に至っている。同時期に判明したセレナリーゼの魔力量がレオナルドの態度に拍車をかけていた。セレナリーゼのことが、自身の立場を脅かす人物に思えて仕方なかったのだ。ゲームでは父から聞いたというだけで、具体的にいつレオナルドがセレナリーゼのことを義妹だと知ったかまでは明言されていなかったが、ゲームの補完がされたみたいで今のレオナルドには妙な納得感があった。


(セレナが薄っすら光って見えるのは魔力、なのか?それにしては父上も母上も全く光ってないけど……)

 今までのレオナルドにセレナリーゼが光って見えていたという記憶はない。前世の記憶を思い出したことが影響しているのだろうか。少し考えたが答えなんてわからなかった。


「どうしたレオナルド?」

 呆然としているレオナルドの態度にフォルステッドが訝しむ。

「あ、いえ、申し訳ありません、父上。何でもありません。おはようございます、父上、母上、セレナ」

 慌てて謝罪したレオナルドは全員に挨拶を返すと、自分の席に着いた。レオナルドの言葉にフェーリスとセレナリーゼは驚きに目を見開き、フォルステッドは一層怪訝な顔になった。

 ここ一年のレオナルドの態度から自然に謝罪の言葉が出たことがそれだけ予想外だったのだ。レオナルドだけがその事実に気づいていない。

 ちなみに、席は長方形のテーブルのいわゆるお誕生日席の位置にフォルステッド、その左手側、扉の位置から見ると奥側にレオナルド、反対側にフェーリス、フェーリスの隣にセレナリーゼという形だ。

 給仕以外のメイドやフォルステッドの側近執事、つまり筆頭執事は待機するように部屋の隅で立っている。その中にはミレーネもいる。


 レオナルドも席に着き、家族全員が揃ったので彼らは食事を始めるのだった。


 食事の間は穏やかな雰囲気だったが、食後、フォルステッドが家族四人の紅茶を新しく注がせて、使用人全員を下がらせた。室内が家族だけとなったところで、フォルステッドが切り出す。

「今日は皆に大事な話がある」

 その声は真剣そのものだった。表情も険しい。家族全員がフォルステッドに視線を向け、姿勢を正す。フェーリスだけは何かに耐えるような苦しそうな表情をしている。

「レオナルド、お前のことだ。この一年、お前が努力してきたことはわかっているつもりだ。その理由もな。だが、このままではお前は壊れてしまう。親としてこれ以上は見ていられんのだ。よって決断した。レオナルド、お前ではなくセレナリーゼを次期当主とする!」

 言い切ったフォルステッドは真っ直ぐにレオナルドを見つめる。

「お、お待ちください、お父さま!どうして突然そのようなお話に?私が次期当主だなんて……」

 だが、最初に反応したのはセレナリーゼだった。余程動揺しているのか、おろおろとフォルステッドとレオナルドを交互に見ている。

 セレナリーゼにとっても非常に重要な話のはずなのに、どうも今フォルステッドが言ったことはセレナリーゼも初耳らしい。

「セレナリーゼ…、突然、ではないのだ。この一年二人をずっと見てきて決めたことだ」

「ですがっ……!」


「はぁ……。まあ、待ちなさい。レオナルド、黙ったままだが、今の話を聞いてお前はどう思っているのだ?」

 セレナリーゼがこれほど反応を示しているというのに、先ほどからもう一人の当事者であるレオナルドはずっと黙ったままで少々不気味だった。

 だからため息を吐きつつフォルステッドから振った。フォルステッドとしては真っ先に突っかかってくるのはレオナルドだと思っていたため意外だったというのもある。親として日に日に追い詰められていく子を見ているのが辛くとも、当人にはそんなこと関係ないだろうから。今後のためにも吐き出したい思いがあればすべて吐き出させた方がいい。


 そのレオナルドはというと、頭の中で必死にゲームの展開を思い出していた。



 ―――――あとがき――――――

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