【四.金のにわとり】
「どうですか」
「うわあ!」
わたくしが紙にしたためるのは、夢の一部。
ありとあらゆる夢を見てきたわたくしは、世界を股にかけて歩き回る冒険者よりも、たくさんの色彩を知っています。
「これ、この『金のにわとり』って! あたしがさっきみた夢だー!」
「ふふ、見えていましたよ。とてもきれいでしたね」
「ほんとにすごい! フリッカって、ほんとのほんとに夢の中が覗けるのね!」
熱心に読んでいます。
王都から離れるほど識字率も落ちるものと思っていましたが、どうやらそうでもないようです。
今日書いた原稿は、十二枚。
短編です。
それでも、十一歳のこの子には少し長いでしょう。
けれど、食い入るように読んでくれています。
作家冥利に尽きるといえばそうですが。
……ああ、なんて綺麗に笑うんだろう。
なんて美しく輝くな髪なんだろう。
なんてやわらかそうな唇なんだろう。
「ジューン、ジューン。学校に遅れますよ」
「ほら、ジューンちゃん。お母さんが探してます」
「まってー! あと二ページだからー!」
「ふふふ、物語は逃げませんよ」
こんこん。
はーい、と返事をするとクレアが呆れた顔で入ってきました。
「ジューン。もうお隣のティムが来ましたよ」
「ああ、もう、ティムのチビ助め、あと少しなのにー!」
「フレデリカ様、いつもジューンがお邪魔して申し訳ございません」
いえいえ、そんなことはありませんわ。
わたくしは笑ってジューンの髪をなでます。
「ほら、ティムくんも待っていますよ。……そうだ、物語、続きを書いておきますから、ティムくんと当てっ子して遊ぶのはどうでしょう」
「それ、いい! わかった、じゃあお母さん、フリッカ、行ってきます!」
「はーい、行ってらっしゃい」
「……」
「……」
あの。
クレアがわたくしを見ます。
「まだ、あの時の夢を……?」
「……ええ。なるべく楽しい記憶をそそいであげてはいるのですけれど……」
力強く握りしめた掌に、自分の爪痕が残るのを感じます。
「力及ばず。ごめんなさい」
「いえいえ、そんなフレデリカ様。そんな滅相もありません。さっきだって、とても楽しそうに金のにわとりの話をしていたじゃありませんか。フレデリカ様がお与えくださった夢が見えている証拠です!」
「……れど」
「はい?」
「ううん、なんでもありません」
だといいんですけれど。
聞こえなくて、良かった。
そう思いました。
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