【三.この国の呪い】
そこで今読んでいる皆様のため説明いたします。わたくし……
夢喰いの聖女フレデリカとは。
オレルビア王国のアッシュフィールドの一族に顕れる、睡眠状態にある人間に介入して、「記憶操作」をする能力。
その能力の及ぼす範囲と効果は絶大です。
普段は、王家に謁見に来た者の中で、懺悔を希望する者を王宮内にある教会のベッドに寝かせ、罪の意識の記憶を
広く聖女の役割だと、王都を離れ田舎のこんな村にまでわたくしの名は広がっております。
オレルビア人の、特に王都の人間は、みな金髪碧眼。
アッシュフィールド家の人間も、例外ではありません。
けれどその能力を酷使し続けると、いずれ髪の輝きは失われ、その色は夜空の星々のそれにすら及ばないほどに光を失った漆黒に成り果てるのです。
光を一ミリも跳ね返さないその髪を見た過去のヒトは、それを魔女の印としました。
アッシュフィールドの夢喰い達は、その多くが魔女裁判によって命を落としていったのです。
国のため尽くし、そして使い捨てられるかのように十字架に掛けられていくのがわたくし達の運命でした。
先王陛下の代になって、ようやくその価値観を否定し、黒髪の夢喰いたちに生存権が保証されるようになりました。
母様が、それを泣いて喜んだのを覚えています。
髪が黒くなり始めていたころでした。
わたくしも、母様の再婚相手の連れ子だったオフィーリアも、はしゃぎ回りました。
母が、正気を失ってその喉元にナイフを突き立てたのは、その半年後。
髪はその先端まで、闇に染まっていました。
先王陛下は、悪魔に魂を売っていたのです。
彼が行っていたのは、隣国との貿易。
その商品は
オレルビア王国には、少数民族が暮らしています。
彼らはみな赤毛で、オレルビア人より身体能力に優れていました。
奴隷として輸出するのには、ちょうど都合が良かったのです。
彼らは、目隠しをされ、舌を切られ、手脚には鎖を繋がれました。
そして先王陛下は母様に、奴隷密売に関わった全員の夢喰いを命じました。
すぐに母様は反対したけれど。
今度は、
アッシュフィールドの分家出身のその男は陛下のいいなり。
自身にその能力は無かったけれど、娘のオフィーリアに代行させたのです。
こうして母様は気が狂うまで夢を喰いつづけ、そして命を絶ちました。
オフィーリアの能力は、母様やわたくしより優れていました。
けれど、それもすぐに限界を迎えるようになりました。
天使のように可愛い妹は、あっという間に光を失いかけた。
わたくしはいやでした。
大好きな、大好きなわたくしの妹。
わたくしは見たくなかったのです。
黒く染まった妹など。
だから。
妹の全てを吸い取りました。
悪夢に繋がる記憶全てを。
一晩で髪は真っ黒になりました。
わたくしは、黒髪の呪われたフレデリカとして、悪夢を喰い続けました。
そしてある時、先王陛下は亡くなったのです。
けれど跡を継いだアレックス新国王陛下も大臣も、先王陛下が既に記憶を全て抜き去った後。
奴隷のことも、わたくしの黒髪の理由も、何もかも忘れておいででした。
奴隷の貿易が破綻したことにより、周辺国から武力侵攻を受けるようにもなりました。
もともとが民を奴隷にして売るほどに国力のない、弱小国家。
あっという間に国土の殆どを失いました。
撤退、戦線放棄の知らせばかり寄越されるそんなある日、新国王陛下の前に呼び出されたのが、このお話のはじまりだったというわけなのです。
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