第54話 偵察
僕の叱咤の声に、3年生も1年生も一気に静まり返った。一気に規律を取り戻したと言ってもいい。だけど、この沈黙は良くない結果を生んでいた。
窓から下にいる
どうする?
どうしたらいいっ!?
頭の中でその2つがぐるぐる回るけど、どうしていいかわからない。脇腹の痛みで考えがまとまらないんだ。
そこへ……。
「家庭科室まで、偵察に出よう。赤ジソのゆかりをありったけ取ってくるんだ。今、蒼貂熊は職員室と来客玄関で動きが取れなくなっている。今がチャンスだ」
そう赤羽の声が飛んだ。だけど、僕には提案をしたというより、煽っているようにしか聞こえなかった。
赤羽は続ける。
「窓から下を匍匐前進で進めば、下にいる蒼貂熊から3階の動きはまったく見えない。帰りに職員室の蒼貂熊の注意を惹いてから逃げれば先生方も救えるし、なによりそのあとの戦いは圧倒的に有利になる」
成功体験からだろうけれど、その提案はあまりにも無謀過ぎだ。頭を打った間藤
だけど……。
「俺も行こう。事態を長引かせるわけには行かない」
井野が手を挙げた。心が折れかけるほど怖いくせに、その決断は病気の松井
さらに、北本も手を挙げた。
「家庭科室は私が行かないと、なにがどこにあるのかもわからないよ。さっきは放送の避難勧告のままに手近なものを持って走っちゃったけど、もっと役に立つものが家庭科室にはあるよ」
マジかよ?
ここにいれば今のところ安全だというのに……。今までの流れからすると、ひょっとして北本ってば、負傷した蔵野か五十部が心配でってことなのか?
吹上も手を挙げた。
「スピードでは蒼貂熊に敵わない。だけど、赤羽と2人で撹乱したら、井野と北本は荷物を持って生還できる」
吹上、それ、逃げ切れるのが前提だよな?
お前のその楽観視は、どこから来ているんだ?
「そうなると……。護衛が必要だな。
おい並榎、もちろん行ってくれるな?」
おい、鴻巣なんでそれを僕に言う?
僕は骨折してんだぞ。弓は引けても激痛が伴うし、なんかもう、まともに走れるとも思えない。それに、仮にこんな怪我をしてなくても、僕の矢はもう蒼貂熊には通用しない。行ってもまったく意味がないどころか、喰われるリスクだけがある。
「今の並榎くんはダメ。私が行く」
おいっ、宮原、そっちこそ駄目に決まってるだろっ!
「宮原が行くくらいなら、まだ僕の方が役に立つ」
そう、ただ喰われるだけの役割としても、だ。なにがあっても、宮原を喰わせるわけにはいかない。
「俺は、犠牲者が出ることや人質を取ることは、人類に対して有効な手ではないと蒼貂熊に学習させる必要があると考えている。職員室があんなことになった直後だからこそ、赤羽の案のバリケード外での作戦に意味が生まれる。
あとは、並榎の判断があれば、全員が戻って来られると俺は考えている」
……鴻巣、お前、なにを考えているんだ?
冷徹な作戦を考えたとも取れるけど、無理矢理感がありすぎないか?
もっともらしいこと言っている陰で、なに考えてる?
あとがき
第55話 内紛
に続きます。
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