第43話 泳がされていた……
屋上に
「そうだ。だから坂本の指揮で、行田が協力してバリケードの組み換えをしている。なにより、ベランダ側はすべて窓だ。地面からは来られなくても、屋上からは来るかもしれない。そっちから来られたら、ベランダが足がかりになるだけに防ぎようがないから、窓をなんとしても塞がないとだな。だから、そのためなら床板までひっぱがす」
鴻巣の説明で、みんなが泡くって頑張っているわけがわかった。
これはシャレにならないぞ。
「……そうか、事態の深刻さは理解した。
で、なんで坂本が指揮をとっているんだ?」
別に異議を
「決まっているだろ。まともな工具なんか、生徒会本部室から持ち込んだドライバーセット1つだけだからな。だから……」
「まさか、空手を工具代わりにしようってか?
そういうもんじゃないだろっ?
仮に、坂本が試割りが上手いにしたって……」
「じゃあ、代わりに誰がやれるんだ?
坂本以外のだれだって、素手じゃ薄板1枚割れないぞ」
「……坂本しかいないな。てか、その発想がもうとんでもねー」
鴻巣と僕はこんな状況だというのに、生産性のない、しょーもない話を続けた。
なぜなら、僕は頭に浮かんでいる重要な疑問を口にできないからだ。鴻巣も同じはずだ。つまり、「なぜ蒼貂熊が非常口側から……」ということだ。
聞かなくても、十中八九正しい答えはわかってしまっているんだけれど。
赤羽が抜け出し、無事に戻ってきた。そう思っていたけど、それは間違いだった。赤羽の行動は蒼貂熊に泳がされていた。だから、あとから赤羽の臭跡をたどって来て奇襲ってことになったんだ。
非常階段そのものは、蒼貂熊の巨体では上れない。だから、僕たちは安心していた。でも、非常階段の手すりを頼りにその外側をよじ登ってきたのだろう。同じ方法でベランダの方から入られたら一巻の終わりだったけど、赤羽の臭跡をたどって登って来たから、そのまま無理してでも非常口から入ろうとした。
危なかった。本当に危なかったんだ。蒼貂熊の嗅覚が鋭かったからこそ、僕たちは救われた。
「今までの行動を見ると、蒼貂熊は2頭で互いをカバーし合っている。屋上にいるヤツのバディはどこにいる?」
あえて角度を変えて聞いた僕の質問に、鴻巣は首を横に振った。
「わからない。蒼貂熊が臭跡のルートをたどって来たとしたら、こちらへの侵入ルートを教えちまったってことだ。となれば、その臭跡の上のどこかにいるだろう。まぁ、功罪相半ばだな。蒼貂熊の弱点を見つけてくれたことと、だ」
鴻巣の言葉に主語はない。だけど、その意味はよくわかった。
「シソの情報だけじゃない。担架が持ち込めたこと、保冷剤が持ち込めたことで功の方が大きいさ」
僕はそう返し、立ち上がった。
めまいがきて膝をつきそうになったけど、痛みに耐えて深呼吸してやり過ごす。なんかくらくらするけど、誰にもバレないようにしないとだ。
そして、重大なことに気がついた。
「臭跡を追って蒼貂熊がここまで来たのなら、逆に進めば保健室だ。篭原先生がヤバいぞ!」
「わかっている。メールは流した。きっと、隠れてはくれるだろう。だけどこっちとしてできることはなくて……」
「宮原、保健室にいる蒼貂熊を射れないか?」
答がわかっていて聞いた僕の問いに、宮原は当然のように首を横に振った。
あとがき
第44話 良い知らせと悪い知らせ
に続きます。
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