第16話 今起きていること
僕の狼狽ぶりを見て、鴻巣が今起きていることを説明してくれた。
「ニュースによると、
だから、今は一律に外出禁止というか自粛になっているし、これから特例で自衛隊が動けるようになったり、警察の警備部から狙撃手が派遣されたりなんてことになったとしても、高校より小中学校が優先されるだろう。おまけに、高校の中でも2年生が修学旅行中で在校者数の少ないここは、もっとも後回しにされると思った方がいい」
なんだって?
これじゃ国内、大騒ぎじゃないか。大地震とかの災害だって、深刻なのは複数の県にとどまる。だけど、今の話じゃ日本中すべてが災害の中心地だ。
でもって鴻巣、なんでオマエだけが情報持っているんだ?
鴻巣は続ける。
「そもそも学校内での発砲を疑問視する有識者とかまでいやがって、そうなったら自衛隊が出てすら処理にものすごく時間がかかるだろう。輪をかけて救出は遅れるってことだ。ったく、俺たちの生命をなんだと思ってるんだって話だ」
……まさか、この期に及んでそんなことを言うヤツがいるのかよ。鴻巣の言うとおりで、僕たちの生命を最優先して欲しいのに……。
「そう言えば、助けを求める電話も繋がらないんだったよな?
それも、蒼貂熊襲撃の規模が大きいからってことか……」
僕の言葉に鴻巣は頷く。
「有線の電話もスマホも回線が
まぁ、システムの復旧する人間が動ければいいけど、それもこの混乱ではどうなることか……。それに、復旧してもすぐまた落ちるだろう。
あくまで俺の予想だけど、市内の数校に蒼貂熊が入った段階でシステムダウンしちゃったんだと思うな。生徒のすべてがスマホを使い、さらにそれを受けた保護者のほぼ全員が一斉に電話やメールやSNSを使い、それはあっという間に相乗的に増えるだろう。
うちの高校への蒼貂熊の襲撃が数分遅れただけで、俺たちには情報が入らない、こんな事態が起きる。現に3年生で自宅と直接話せた奴はいないし、メールすらも激重で、火星と通信しているみたいな遅さだ」
なんてことだ。校内に蒼貂熊が入り込んできたとき、すでにネットはダウンしていたのか。
鴻巣は続けた。
「実際に俺も試してみたけど、自宅どころか警察、消防、それに市役所とかの行政機関すらまったく繋がらない。それにネットにつながって、メールがタイムロスなしに送れるようになっても、助けを呼ぶということではあまり意味はなさそうだ。
だって、外部に向けての有効なSOSの書き込み先がないんだよ。今、日本中で誰もがSOSを書き込む側なんだ。だから、誰も読まないし、読まれても他のたくさんのSOSに流されて終わりだ。
それでもなおSOSが伝わったとしても、我が市の救急車の台数は20台もないと聞いている。隣の市からの応援も来るわけがないし、1000人を超える重傷者が出ているとしたら、まずここには来ないな」
「くそっ!」
僕は、絶望的な気持ちになって、そう毒づいていた。
だけど僕、そこでみんなが見ていることに気がついたんだ。
少なくとも今、僕はみんなを奮い立たせなくちゃならない立場らしい。そして、みんなも頑張ってくれている。みすみす殺されないためだ。この短時間に電気トラップ内蔵の攻勢バリケードまで作られている。それなのに、一番の戦果持ちの僕が、真っ先に絶望してどうするんだ。
そう思った瞬間、僕に途方もないほどの責任感が降ってきた。
まだまだやれることはある。やらねばならぬこともあるんだ。
あとがき
第17話 生徒会長
に続きます。
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