第15話 悪報


 で、僕たちの緒戦を動画に撮ったヤツがいたって?

 そもそも俺たちが死んでいたら、その動画、どうするつもりだったんだ?

 僕の頭の中に、縁起でもない画像が浮かぶ。そして、その画像は真っ赤に塗りつぶされて終わるんだ。

 そんなもん……、撮っておいた方がいいの、か……?


 まぁ、間違いなく、この国としての対応策はとられるようになるよな。僕たちが死ぬことで……。それでもなにもされなかったら、あの世で泣く。

 ってか、電話が通じるようになるときに備えて電池を大切にして欲しいな。動画なんか撮るよりさ。


 そんな考えを吹き飛ばすように、横で上尾が明るく言う。いや、叫ぶ。

「いかに強くても、蒼貂熊は獣なんだねっ。人間様が本気を出せば、ここまで対抗できるんだ!

 私たち、このまま時間が稼げたら生き延びられるよね!」

 と。

 周囲から歓声が湧く。

 おおう、凄えなぁ。さすがにライブなんかしているヒトは、人の気持ちを盛り上げるのが上手い。


 となると、上尾の適材適所を考えたらここじゃない。もっと上尾を必要としているところがある。

「上尾さん、この調子で1年のところで後輩を勇気づけて欲しい。後輩たちが自暴自棄にならないように。そして、逃げ出すときが来たら、整然と逃げられるようにして欲しい」

「……わかった」

 上尾は少し考えるそぶりを見せたけど、案外素直に頷いて1年生を守るバリケードに潜り込んで行った。


 なんか安心したよ。

 3年生のところには鴻巣がいる。そして1年生のところで上尾ががんばってくれれば、籠城が長引いてもみんなが自暴自棄になっちまうこともないだろう。



 バリケードが組み終わった。

 そこで、僕は矢を渡された。崩れたバリケードに混じって落ちていたヤツだ。

 だけど、どれもくにゃりと曲がっている。ああ、蒼貂熊に咥えられたり掴まれたりした矢だ。これはもう使えない。手でまっすぐに伸ばしたって直線が出せるわけじゃないから、射たってどこへ飛ぶかわからない。こうなると、無事な矢の残りは7本。僕が3本、宮原が4本だ。

 梅干しに刺さったままの、スペアの吹き矢の矢も回収された。

 まだ釘はあるから、これは作り足すことができるだろう。

 戦力としちゃお先真っ暗だけど、まぁ、助けが来るまでの時間が稼げればいい。多くても数時間を凌げればいいんだ。


 そう思っていたら……。

「悪い知らせだ」

「なんだ?」

 生徒会長の鴻巣が、スマホ片手に小声で話しかけてきた。

「我々に、十中八九、助けは来ない」

 えっ!?

 さらっと言うな、そんな重大事!


「なんでだ?」

 僕、少し呆然としていたかもしれない。

 だってこの事態だ。職員室からもあちこちに通報されていて、直接警察は戦えないにせよ、誰かがなんとかしてくれるはずって思い込んでいた。だって、学校が襲われているのに、日本という社会から無視されるなんて、いくらなんでもありえないだろ?


 籠城なんて考えていても、誰かが助けに来てくれることが前提で、無闇に長引いてしまうなんて考えてもみなかった。せいぜい長引いたとしても30分が3時間になるぐらいのこととしか思ってなかった。

 そんな長時間、ここで孤立していたら全員が殺されてしまうじゃないか。行田のバリケードだって、いくら頑丈でも恒久的なものじゃない。

 一体全体、どういうことなんだ?

 まさか、僕たちが皆殺しにされる事態が容認されちゃったんじゃないだろうな?



あとがき

第16話 今起きていること

に続きます。

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