第17話 生徒会長


 僕は、鴻巣に話す。

「おい、生徒会長。すぐに、行田の考えたバリケードの写真をあちこちに拡散する準備をしておいてくれ。ネットに繋がるようになったら、すぐにできるように、だ。

 無駄かもしれないけど、1校でも救いになればいい。前のバリケードは県だか市だかの教委で配布したマニュアルで作ったものだったよな。あんなの当てにならないけど、この改良版ならどこの学校でも作れるし効果が高い。それから、電気トラップについてもだ」

 ここまでを大声で言ってみんなを鼓舞し……、僕は小声になった。


「鴻巣、オマエ、実は生徒に開放されていない学校職員用Wi-Fiかなんか押さえているだろ?

 でなきゃ、他のやつが取れないニュースが読めるはずが……」

「すぐやろう。やっぱ並榎、お前はさすがだな」

 鴻巣はそう人のことを持ち上げておいて、僕の質問を黙殺した。そして、手はスマホ操作に、口はそのまま僕に話しかけ続ける。やっぱコイツ、器用だし地頭もいい。伊達や酔狂だけで生徒会長になったヤツではなさそうだ。


「職員室とも連絡が取れた。向こうのバリケード前にも蒼貂熊アオクズリが数頭いて、動きが取れないそうだ」

「おい、そうなると、トータルでどれだけ校内に入り込んだんだ?」

「最低でも、4から5頭は覚悟しとかないとだな」

「……無傷なのがまだ2頭以上いるのか」

 絶望的な気持ちになるのを、必死で抑え込む。僕は、最期まで楽天的に振る舞わなくてはならないんだ。


「ああ。これだけ計画的に入ってきているってことは、こちらの予想プラス1くらいは想定しないとだ。あの知能だと、そういったところまでこちらの裏をかきにくるだろう」

 蒼貂熊、つくづく厄介だな。クマならここまで計算高い行動は取らないだろうに。日本中の野生動物が食い尽くされちまうわけだぜ。


 そこへ、教室の中から出てきた宮原が、深刻な表情で報告してきた。

「間藤さんの出血は止まった。だけど、ひどい脳震盪を起こしているみたいで、早急に医者に診せたい。脳挫傷でもしてたら大変なことになるんだろうけど、その診断なんか私たちにはできないし。ただ、まだ吐いてはいないのだけは良い知らせかな。

 それから、中島さんは骨折部位の腫れと痛みがどんどんひどくなってる。もう、ソフトボールが腕に入っているみたいに膨らんでいるよ。市販薬の痛み止めを持っていた女子がいたからとりあえず飲ませたけど、これじゃ気休めにしかならない。やっぱり早く医者に診せないと……」

 ……やっぱりか。ヤバい感じはしていたもんな。だけど、蒼貂熊の尻尾の一振りだけでこの損害だ。戦う相手としての蒼貂熊、チートなまでに強大すぎてお話にならない。


 さて、間藤と中島、どうしたもんか……。有資格の医療関係者なんか、生徒の中にいるはずもない。

 そんな僕の逡巡を見抜いたか、宮原が鴻巣に聞く。

「ねぇ、保健室と保健の先生は今、どうなっているのかな?

 先生は職員室に退避しているかな?

 保健室に行けても、先生がいなきゃどうにもならない?

 そもそも、先生と保健室が揃っていても、この状況じゃどうにもならない?」

「ちょっと待ってて。今、LIMEしてみる」

 鴻巣がそう応えて、スマホの画面に指を滑らす。


 うう、鴻巣も焦っているな。LIMEは校則で禁止だろうが。

 生徒会役員の内部で密かに運用しているにせよ、それを言っちまっていいのかよ。てか、マジで学校職員用のWi-Fiに入り込んでいるのは確実だ。ヤバいぞ、コイツ。

 まぁ、この場ではそれに救われているんだけどな。




あとがき

第18話 保健室の限界

に続きます。

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