第13話 軽音部
行田は説明を続ける。
「机を積み上げて、そこでさらに机の面を外に向けて並べれば、そりゃあ壁って感じになるけど、逆に思いっきり殴ったり体当たりしやすい構造じゃねぇか。おまけに、バリケードの内側に向けて机の足があるから、間藤と中島みたいにその足に絡め取られて怪我をする確率も高い。
蒼貂熊を舐めていたのか、考えが足らないのか、センスが凹んでいるのか……」
……行田、オマエ、前々から思っていたけど口悪いな。
で、それでも、確かに行田の言っていることは正しい。今組み上げられているバリケードを見れば、一目瞭然だ。
机の足を3次元に絡めあわせて強度の高い芯を作り、それを廊下の壁から壁へ一体の構造で組み立てている。使う数は前の3莓を超えて、重さも十分ありそうだ。その外側には、さっきまでとは逆に机の足を外に突き出す形でバリケードが組まれている。これって、歴史の時間に大学応援部OBでお城マニアの猿田先生から教わった、逆茂木ってヤツだよね。
で、がんがんと激しい音がしていたのは、机の足の先のプラスチックのキャップを外し、鉄アレイで足の端を潰していた音だ。これで、尖ったとまでは言えないけど、単なるパイプからは薄く鋭くなった感じはしている。これ、たしかに近寄るのが怖いし、蒼貂熊の尻尾だって不用意に叩きつけたら深々と刺さるだろう。
やっぱり、鉄は頼もしい。
「……鉄アレイなんか、あったんだ?」
僕の問いに、行田が答える。
「金槌なんか、あるわけないだろうがよ」
「そういう意味で言っているじゃねーよ。別に鉄アレイで叩いたって、悪いこたないよ」
「普通に運動部御用達物品だからな」
……なるほど。
みんな、ずいぶんいろいろと持ち込んでいるんだな。まぁ、盗んだ化学薬品持ち込むのに比べたら、運動部の鉄アレイの方がよっほどまともだもんなぁ。
で、さらに外側に突き出した机の足と足の間に、軽音部の上尾
彼女はなにをやっているんだと目で聞いた僕に、またもや行田が説明してくれた。
「ギターの弦を巻き付けてもらっている」
「えっ、どういうこと?」
鳴子みたいに近寄ったら知らせるってことか?
そんなの、ここで直接見張っている以上、無意味では?
僕の頭の中が、「?」でいっぱいになっていると、上尾が立ち上がって、制服のスカートの裾を整えながら言った。
「行田くん、うまくやってよね。
新品のニッケル弦、全部使っちゃたんだから」
その姿は、単にボーイッシュな美少女に見えるけど、ライブのときには髪を逆立てると聞いた。どんなふうに化けるんだろうね。
上尾はさらに続ける。
「行田、1年の避難している教室から黒板拭きクリーナーを回収して、電線繋いで。行田の案のとおりにしているけど、クリーナー1台分の電線の長さじゃ教室のエアコンのコンセントまで届かないよ」
「お、おう」
行田は上尾の言葉に、奥のバリケード越しに1年生と話し始める。別の教室から黒板拭きクリーナーを持ってきてもらうつもりだろう。うん、行田も女子に言われると、毒舌を引っ込めてきりきりとよく働くなぁ。
で、その行田の背に僕は聞く。
「もしかして、感電を狙っているのか?
だけど、電柵は役に立たなかったってニュースで見たぞ」
「インピーダンスがあまりに違うからな」
そう言って行田は笑った。うん、言っている意味はわからないけど、オマエの笑いに殺意があるのはわかったぞ。
あとがき
第14話 トラップ
に続きます。
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