第二章 白夜と水藻篇

これは夜白の父親(水藻みずも)と母親(白夜)の物語です。


白夜は妖狐の中でも美しく強い女性だった。

白く長い髪に目は紅く凛とした雰囲気から余程の命知らず以外は

言い寄る事はなかったという。


水藻みずもは人間が好きだった。

毎日のように人里ひとざとに降りては土産みやげを貰って帰って来ていた。

見返りにわざわいを成す妖怪から守っていた。


ある満月の綺麗な日のこと…。


当時の妖狐一族のリーダー的存在だった水藻みずもは白夜に恋い焦がれていた。

白夜も薄々は感じていたが…。


白夜は湖の畔で月を見ていた。

同時に茂みに隠れ白夜を見ていた水藻の姿があった。


“いつ見ても美しい…そうは思わぬか?風磨ふうまよ”

あの女がですか?


“ムッ…やはりお子様にはわからぬか…。”


そんなに好きなら隠れてないで行ってくればいいじゃないですか。


「馬鹿もの!!それが出来ればこんなコソコソしとらぬわ!!」


水藻みずもさま、声がでかいですよ〜?


「あ!しまった…。」


『そこにいるのは誰ですか?』

『出てきなさい…でて来ぬのならば茂みごと焼き払いますよ?』


白夜はそう言うと手のひらに狐火きつねびを出した…。

狐火きつねびは触れても熱くないが包まれれば魂が焼けるという…。


ガサガサガサガサ…。


いやいや、すまぬあまりに綺麗なので見惚みとれていた。


じー…。


な、何じゃその怪しいものをみる目は!?


『あら、水藻みずも様でしたか…。失礼しました。』


「……。」


「月が綺麗じゃな…。」

「はい。」

「……。」


(あぁ~じれったいな〜水藻みずもさま!)


「あの、御用ごようがないのでしたら私は失礼いたします。」


御用ごよう…おぉ大事な話があるのじゃ!」

「はい?」


「ワシの子を産んでくれぬか!」

「な…な、な、な、な…。」

「なにをいきなり!失礼します。」


ガーン…。


水藻みずもさま、さすがにあれは無いですよ…。」


「わかっておるわ!!」

「だが仕方なかろうワシは白夜を見てると上手く話せぬのじゃ…。」


「困った…この無礼なんと言えば…。」

「素直に謝れば良いんじゃないですか〜?」

「おぉ…そうか。」

「では、行ってくる。」


待たれよ〜白夜どの〜〜〜〜〜!!


「頼りになる人なのにアホなんだよなぁ〜。」



白夜は湖の対岸にいた…。


水藻みずも様もう少し考えたもの云いってあるでしょうに…。』


満更まんざらでもないくせによく言うよ。」

「小雪さん…。」


「水藻の気持ちわかっているんだろ〜?」

「……。」

「白夜も好きなんだろ?」

「……。」


「だったら、受ければいいじゃないか」

「でも…。」

「じゃあ私が水藻みずもに言い寄るけどいいかい?」

「ダメです!」

「じゃあ、頑張んな!」

「おっと…噂をすれば来たよ〜じゃあね。」


「白夜どの〜〜!!」

「……。」

「ここにおったか…。」

「先ほどは、すまんかった…!」

「ワシもどうかしておった…。」

「私も水藻みずも様が好きですから…。」


「だから…ホントにすまぬ!」

「え?いまなんと!?」


「ですから、私もあなたをお慕いしてます所以ゆえ

本気で私の事を思っているのでしたら…。」


「ワシは本気じゃ!」

「本気で白夜そなたの事が好きじゃ!」

「改めて申し上げる…ワシと添い遂げてくれ!」


「はい…!」


おぉ〜今宵はなんと素晴らしい日じゃ!

うたげの準備をせねば!


「一つだけ、お願いがあります。」

「願いじゃと?何じゃ申せ。」


私より先に逝かないでください…。

1日でも良いから私より長く生きて。


白夜の父は先の妖怪殲滅戦ようかいせんめつで戦死していた。


「わかった…大丈夫じゃ!」

「ワシは…死なん!」


子が産まれたら、そなたの名をもらい「夜白やしろ」と名付けよう!


「気が早すぎます…。」


「それに私の名をと言っても、そのままじゃないですか…。」


「暗い夜も明るく照らす白い月灯りの様な優しい子になって欲しいな。」


「ですから…気が早すぎます…。」


翌年…。

2人の間に玉の様な女の子が産まれた…。

名は『夜白やしろ』と名付けられた。

その5年後に妹の『眞白ましろ』が産まれた。

大きな争いもなく平和な日が続いていたが突然火種が降ってきた。


水藻みずもが裏切った…。

妖怪を手引きし人間を襲わせたと…。

だが、それは妖怪共の罠だった。


村人は怒り武器を手に取った。

腕のたつはらにんを雇い待ち構えていた。

当時の宮司ぐうじが『水藻みずもはそんな事はせん!』と叫んだが誰も聞き入れなかった。


宮司の娘が水藻みずもに事情を説明し『村にはしばらく来るな』と

言っておいたが…。

水藻みずもは来てしまった。


村人は激怒し集まってきた。

『ワシはお主らを裏切ったりはせぬ!』

「そんな事…今更誰も聞かぬわ!」


そうだ!そうだ!

隣の村も焼かれた!

水藻!おまえが手引きしたんだろ!!


『ワシは…。』


ズキューン!!


『くっ!』


1人のはらにんが銃を放った。

「この次は呪詛じゅそを込めた弾を撃つ!」


ザザーッ!


「ダメだ!撃つでない!全て誤解なのじゃ!」


宮司の娘が止めに間に入った。


「どけ!静江しずえ!」

「いやじゃ!どかぬ!」


構うことは無い水藻みずももろとも撃ち殺せ!


「怨むなら、その妖狐を怨めよ娘…。」


ズキューン!!


「ちぃっ!」


バサッ!


うぐっ!!

水藻みずも〜!!」


ズキューン!

ズキューン!


「良いか…おぬしら・・・この娘を…殺したらワシは…祟るぞ…!」


ドサッ…。


水藻みずも〜〜〜…。


静江しずえを連れて行け!」


なぜじゃなぜ…。


水藻みずも呪詛じゅその込めた弾丸を数発くらい亡くなった…。


その連絡は白夜にすぐさま伝わった。


「わかりました…。」

「ありがとう。」


白夜は静かにその場を離れた…。


水藻みずもとの思い出の湖のほとりで泣き崩れた…。


水藻さま…大丈夫だって…私を一人にしないと言ったのに…。


「白夜さま…!」

「…!?」

風磨ふうま…どうしましたか?」

水藻みずもさまのかたきを討つ許可をください!」

「・・・・・・。」

「なりません…。」

「どうしてですか!?」

仇討かたきうちなど水藻みずも様は望んではいません・・・。」

風磨ふうまあなたが人を殺せば人々はこちらに攻め入って来るでしょう。」

「そうなれば・・・罪もない子供たちまで犠牲ぎせいになるのですよ?」


人間など皆殺しにしればいいだけです・・・。


「絶対にそれはなりません!!」

「いまは水藻様をそっと送ってあげてください。」

「解せません。」

風磨ふうま!!」


失礼します!!


その後、風磨は白夜の言いつけに背き村を一つ焼いた・・・。

水藻を殺したはらにん惨殺ざんさつしたという・・・。

水藻になついていた静江しずえは生き残っていた。

風磨が逃がしたらしい・・・。


「なぜです!!」

「なぜ言いつけに背いたのですか!?」

「・・・・・・。」

「あなたのやったことは決して許されることでは無いのですよ?」

「憎くないのですか?」

「え?」

「白夜様は水藻様を殺した人間を憎まないで許せるのですか!!」


白夜とて愛する者を殺されて憎まない訳がない・・・。

だが、水藻は人を信じ愛した・・・それゆえに出来るわけがなかった。

最後まで・・・。


「風磨・・・あなたを永久の闇に封印します…。」

「な・・・!?」

「よいですね?小雪・・・。」

「仕方ないよね・・・復讐なんてやめなって言ったじゃないか。」

「姉上・・・かばってはくれないのですね。」


ふふ…はははは・・・好きにするがいいさ・・・だが覚えておけ!!

封印が解けたとき貴様ら全て殺してやる!!

絶対にだ!!!


そして風磨は封印された・・・。


「小雪・・・人間界へ繋がる道を全て封鎖して結界を張って下さい。」


無用な交流は一切絶ちます・・・。


人間とのつながりは絶たれた。

夜白がこっそりと抜け出すまでは・・・。






特別篇・・・第二章 完

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妖狐と少年 特別編 涼宮 真代 @masiro_suzumiya

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