妖狐と少年 特別編

涼宮 真代

第一章 静流

いまから170年程前時は江戸の末期…陰陽師の家系に産まれた少女は天才と言われた。

幼くしてすべての術を会得していた。


魑魅魍魎ちみもうりょうの騒ぎには常に同行し彼女が退治してきた。

彼女が15になった時…。

頭首とうしゅから彼女にある事が告げられた。

数多の妖怪を退治してきた彼女はリバウンドにより身体に異変がでてきていた。


このままでは彼女は妖怪化してしまうのではと考えた頭首は…。

厄災が降り注ぐ前に

家の為にその身を神に捧げてくれと…。

俗に言う人身御供ひとみごくうであった。

当日年頃であった彼女には想い人もいて結納の準備も進んでいた。

頭首はその話しを突然破談にする。

納得いかないと彼が彼女の元に来た。

ところが、頭首は彼を彼女の前で斬り殺してしまった。

『なぜ儂の言う事が聞けぬのだ!』

逆上した頭首は彼女もそこで斬り捨ててしまった…。


彼女はまだ息があったがそのまま埋められてしまった。

そしてそこに祠を建て祀ったという。

だが、彼女を恨み憎んだ妖怪共は彼女が居なくなったのを知りその家は襲撃され滅んだ。


それから100年後…彼女の魂が目覚めた。

『なぜじゃ…憎い…人間どもめ…。』

『殺してやる…呪い殺して…やる。』

その祠は妖狐の住むもりの奥にあった。

小さな子供が行かないように警戒していた。

ある日の事…。

「ねぇ…なぜ泣いてるの?」

好奇心に駆られた幼い夜白だった。

『……。』

「お話ししよ?」

『……。』

「こら!夜白ここに来てはいけないと言っていたはずですよ?」

「ごめんなさい…かあ様。」


翌日…。


夜白はまた来ていた。

また来たのか…この娘は馬鹿なのか?

「どうして泣いてるの?」

『…さい!』

「……!」

『うるさい、うるさい、うるさい!』

『泣いてなどおらぬ!!』

「やっと応えてくれたね。」

『……。』

夜白は優しく微笑んだ。

また来るね…。

『待て…貴様は何なのだ…。』

『なぜ関わろうとするのだ…。』

『なぜ優しくするのだ!』

夜白はにっこり笑って言った。

「理由なんか無いよ?泣いてる子には優しくしないといけないんだよ?」

『……。』

「夜白!何度言えばわかるのです!」

彼女は姿を初めて現した。

『おまえたちは人を憎んでいるのでは無いのか?』

「夜白、下がりなさい!」

「はーい…。」

「この子の父親は人間の娘を庇い人間に殺されました。」

「憎んでいないと言えば嘘になるでしょう」

「ですが、人間に救われたのも事実。」

夜白は、人恨むべき存在では無いと私に教えてくれました。

『では、許すというのか?』

「理不尽を許した訳ではありません!」

『私はどうしたら良いのだ…一族に裏切られ殺され、最愛の人を目の前で殺された…私は!』

「一緒にいこ?こんなとこに独りでいちゃダメだよ…。」

「夜白あんた何を言い出すの!」

『この娘は馬鹿なのか?』

『いや、私が馬鹿なのか…。』

不思議だこの娘といると心が穏やかになる…。

自然に涙が出てくる…。

悪霊の私が…。

「違う!あなたは悪霊なんかじゃない」

「そうですね…悪霊は泣きません。」

「夜白は特別なのです心を魂を癒やすチカラを持っているのです…。」

『なるほど…な。』

「この面を差し上げましょう。

一族に伝わる癒やしの面です。」


キツネの面を彼女に差し出した…。

『ここで、悪霊に堕ちるのも運命…私共と来るのも運命…。』

ただ、この子達に仇なす者であれば私が全力で葬り去ろう…。

『きさま…名はなんと申す』

「私は白夜。」

『白夜さま…か…。』

彼女はそう言ってキツネの面を着けた

『あなた方に仕えてみようと思います』

『私は静流と申します。』

「やった~静流〜。」

「静流…では最初のお願いです」

『命令では無いのですか?』

「お願いですよ。」

「この子と友達になってください」

『はい…はっ?』

「静流〜私は夜白宜しくね」

「みんなに紹介するから来て〜!」

夜白は静流の手を掴み取り嬉しそうに駆けて行った。


「あの子があんな笑顔をするなんて…笑わなくなっていたのに…。」



特別編〜静流〜  完






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る