第40話 決意と告白
昨夜は撫子が全然寝付いてくれず仕方なく
料理とか家事をしっかりやっているだけあって、細いのに意外と力がある。
なんとか抜け出そうと動くたびに撫子がむずがるので、結局朝までベッドの上だった。
すやすやと眠る撫子を見て、色々と考えた。
撫子がどう思っているかはさておき、俺の方は正直好意はある。
それはそうだろう。趣味が合って世話焼きで、天然で可愛くて美人で。好意を抱かないほうがおかしい。
果恋と別れたばかりの頃は、もう恋愛なんてこりごりだと思っていたけど今はそんなことはない。
早乙女さんには誤魔化したが、撫子からも少なからず好意を向けられていることはさすがに分かっている。特にここ最近はその行動が顕著だ。
思い返してみれば、この半年でいろいろなことがあった。
毎日手料理食べて、弁当も作ってもらって、デートして、手を繋いで、膝枕してされて、ハグして、膝の上に座られたりもした。挙句の果てには添い寝。
そのへんの初々しいカップルよりカップルらしいことしてるんじゃないかとも思う。
問題は撫子にたくさんもらいすぎだということだ。
撫子と付き合っても捨てられるなんてことは思わないが、俺自身が納得できないのだ。
今更撫子から離れられるかと聞かれるともちろん答えは決まっているのだが、自分の中でずっとモヤモヤして先延ばしにしている。
「——ご、ごめんなさい!」
俺の目の前には深く頭を下げる撫子。僅かに覗いている耳は真っ赤だ。
まぁ昨日の痴態を思えば無理もない。
「外ではお酒飲まないって約束したのに……。それにいきなり呼びつけちゃって挙句の果てにはまた一緒に......」
「まぁ間違えちゃっただけだし仕方ないよ。元々呼ばれたら迎えに行くつもりだったし」
「うぅ。……私、迷惑かけてばっかだね」
「え、どこが?むしろ俺の方がお世話になりっぱなしで申し訳ないと思ってるんだけど。これくらいなんともない」
この程度で迷惑なんてとんでもない。これ以上完璧超人になられたら俺なんてどうなるんだよ。
むしろ普段の恩を返すチャンスだし、もう少しだらしなくなってもいいんじゃないかとすら思っている。
「で、でも……」
何を遠慮することがあるのか。俺なんて情けない姿を晒しまくっているというのに。
——でもその度に撫子は俺を包み込んでくれた。
恋愛経験が無くて恥ずかしいはずなのに、顔を赤くしながらも俺のためにたくさん勇気を出してくれた。
俺は、そんな撫子のことが——。
「……好きだなぁ」
「……ふぇっ?」
「…………」
思わず口に出てしまったらしい。まだ赤みの残っていた撫子の顔が一気に沸騰した。
「い、いま、なんて......」
もうこうなったら仕方ない。
「好きなんだ、撫子のことが。いつもお世話してもらってばっかだけど、趣味が合うところも甘えてくるところもちょっと天然なところも全部好きだ。俺は——」
続きは言葉に出来なかった。
なぜなら、撫子が俺の胸に飛び込んできたからだ。
「......嬉しい。私も好き。大好きです」
お互いに背中に手を回す。ハグは今までも毎日のようにやってきたが、全然違う。
いつもは俺を労るための優しいハグ。だけど今は、愛情表現としての感情任せのハグ。
好きという言葉がこんなに素晴らしいものだなんて思わなかった。
口に出すとさらに愛おしいという気持ちが増していく。
果恋の時は言わされていただけだし向こうからハッキリと言われたことは記憶にない。
お返しが出来るかどうかなんて問題じゃなかったんだ。出来る出来ないではなく——すればいいんだから。
撫子が望むことをやろう。喜ぶことをしよう。それでいいじゃないか。
「あの……私、優太さんの、か、彼女ってことでいいの……?」
顔を少しだけ上げて上目遣いでそう問いかけてきた。ヤバい、可愛すぎる。
「もちろんだ。だから、もう遠慮なんてしないで好きなだけ甘えてほしい」
そう答えると抱きしめられる力が少し強くなった。
昨晩あんなに悩んでいたのが馬鹿らしい。考えるまでもなかったのだ。答えはひとつしかないのだから。
もはや胃袋どころではない。俺は魂ごと撫子に掴まれているようなものだ。
撫子が顔を上げて、潤んだ目で俺を見る。
俺がその頬に手を添えるとそっと目を閉じる。
やや突き出された唇に、俺は自分の唇を重ねた。
触れるだけの簡単なキス。それだけでも幸せな気持ちが駆け巡る。
「............もっと」
だけど撫子は1度では満足できないようだ。
俺は微笑みながら再び唇を押し当てる。
俺の——俺だけの女神様は想像以上に甘えたがりで可愛かった。
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