第39話 新歓とお迎え
繁忙期を無事に乗り切り、4月に入って最初の土曜日。
今日は夕飯は一人だ。いつぶりだろうな。
撫子はサークル自体には入っていないが、今日は早乙女さんに誘われて新入生歓迎会に参加しているらしい。
歓迎会でもなんでも理由はなんでもいいのだ。食べて飲んで騒げれば。合コンだと思っている者もいるだろうし。
まあなんにせよ、撫子も同年代と楽しむことも大事だ。酒は飲まないから大丈夫と言ってはいたが心配ではある。
——ピリリ、ピリリ
静かな部屋に着信音が鳴り響く。
撫子は新歓会だし、透あたりだろうか。もう夜だってのに今から飲みの誘いか?
と思ってスマホを手に取ると、相手はまさかの撫子だった。なにかあったのか?
「もしもし」
『ゆうたしゃ〜ん!どこにいりゅのぉ!』
あ、これはやってんな。紛うことなき酔っ払いである。
「どこって家だけど。撫子、酒は飲まないって言ったろ?」
『なにいってりゅの!はやくきて!』
「どこにいるんだ?」
『ゆぅたしゃぁん!はやくぅ!』
いや、迎えに行こうにもどこか分からないとどうしようもないんだが……。
『もしもし?西成さん?』
「その声、早乙女さん?」
『うん。ごめーん、撫子ったら酔っちゃって……』
「迎えに行くからどこか教えて貰ってもいいですか?」
『あ、大学の近くなんだけど——』
「分かりました。30分くらいで着くと思いますんで、それまで撫子をよろしくお願いします」
「お待たせしま「ゆたしゃぁん!」」
店に入って手を振る早乙女さんの場所まで行くといきなり撫子が突撃してきた。フラフラだし危ない。
受け止めようとすると撫子はそのまま抱きついて匂いをクンカクンカし始めた。人前でなにやってんのこの人。
「まったく……、飲まないって言ってたのに」
「あー。あたしがトイレ行ってる間に間違えてあたしのお酒飲んじゃったみたいでさ......」
「なるほど……」
誰かに飲まされたとかじゃないならひとまず安心か。
年末やこの時期になるとアルハラという言葉がニュースにも度々出てくる。
嫌がる人に無理やり飲ませるのももちろんダメだが、弱い人に飲ませれば最悪、死に至る可能性もある。そうでなくても酔いつぶれた人を介抱するフリをして犯罪に及ぶこともある。
アルハラは傷害罪や強要罪などの罪に問われることもあるらしい。
一瞬その可能性も頭をよぎったが撫子の天然が発動しただけのようだ。
「......にしてもいつの間にこんなに進展してたのよ。付き合ったなら報告くらいくれてもいいのに」
「いや、付き合ってはませんよ」
「え”。まだ付き合ってないの!?」
なんか早乙女さんからすごい声が聞こえた気がする。
「まだもなにも……撫子は酔うと甘えたがるだけです。普段はこんなことしませんよ」
「そういうことね……。こりゃ苦労するわ。いい?こういうのはね、普段抑えられている欲望があらわれているのよ!その証拠に、ここの誰でもなくわざわざアンタを呼び出して甘えてるんだから察しなさいよ」
俺は今来たばかりで何とも言えないが......。
「……少し考えてみます。あ、一つだけお願いがあるんですが。撫子は酔っている時の記憶が残るタイプです。なので何も覚えていないフリをしてもらえると助かります。ほら、撫子帰るよ」
「んぇ?かえりゅぅ?ゆたしゃんいっしょ?」
「一緒に帰るよ」
「ん!かえりゅ!」
「……たしかにこれは撫子も私達も忘れたほうが良さそうね」
「はは、お願いします。じゃ」
相変わらず撫子は引っ付いてじゃれついてくるので歩きにくいことこの上ない。
「ほら、帰るから車乗って」
「やぁ。いっしょぉ」
ぐずる撫子を宥めながら助手席に押し込める。なんだか前回より甘え方が過激になってないか?外だから開放的になっているのか飲みすぎたのか原因は分からないが。
運転の最中、撫子はずっと俺の左手で遊んでいた。何が楽しいのかは分からんが、飛びかかって来られたりよりはマシだ。
あ、コラ、噛むんじゃありません。
「ほら着いたよ。自分で歩ける?」
助手席のドアを開けて声をかける。
「
これは甘えてるのか?幼児化してるともいえる。
仕方なく背を向けてしゃがみ込む。
「ほら、おいで」
「はーい!」
元気な返事と共に背中に飛び乗ってくる。頭のにおいを嗅ぐのはやめていただきたい。自分が羞恥に悶えるだけなのに。
そのまま俺の部屋へと運び込む。さすがにこのまま隣の部屋に放り込んで放置は出来ない。
「はい、水飲んで」
コップを渡そうとするが、コテンと首を傾げるだけだ。そういや前回も自分で飲まなかったな。
仕方なくゆっくりと飲ませて、1杯分飲み干したら頭を撫でる。
そして寝室へと向かって撫子をベッドに放り込む。
本当ならシャワーも浴びたいだろうし着替えもしたいだろう。だけど両方とも自力で出来るかというとノーだ。1日くらい我慢してくれ。
さて、俺はソファで寝るかな......と思ったが撫子に服の裾を撫子に掴まれてしまった。
「いっしょ、ねよ?」
いやそれはマズいだろ。
しかしこの状態の撫子は言い出したら聞かないことも分かっている。
「......仕方ないよな」
ベッドに入ると、すぐさま撫子が抱き着いてくる。
「んふふ、いっしょぉ」
今だけだ。撫子が寝たらソファに移動しよう。
しかし今日の撫子はなかなか寝てくれず、そのまま夜が更けていくのであった。
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