第38話 欲(※前半 撫子、後半 優太 視点)



 優太さんを連れて寝室に入り、ベッドへと歩いていく。


「ここ、寝てもらってもいい......?」

「......撫子?」

「早く。あ、うつぶせでね」


 恥ずかしさを誤魔化すためにすこしぶっきらぼうな言い方になってしまう。

 優太さんは迷いながらも結局は言う通りにしてくれた。

 私もベッドの上へと上がって優太さんの腰へと手を伸ばして揉んでいく。

 肩を揉んだ時にも思ったけど優太さんってけっこう筋肉あるよね。私と全然違う体。それを丁寧に筋肉を意識しながら揉み解す。


「うあぁ~」


 優太さんの口から気の抜けるような声が漏れ出て思わず笑ってしまう。気持ちよくなってくれてるならよかった。


「撫子マッサージも上手すぎ......。気持ち良すぎて、ヤバ......い......」

「眠かったら寝ちゃってもいいからね?」


 寝室には優太さんに貰ったアロマライトのいい香りも漂っていてリラックスする効果もある。


「......でも、それ、は............」


 意識が曖昧な優太さんの腕と足も揉み解していく。

 思わず抱き着きたい衝動に駆られるが我慢だ。今はマッサージに集中しなくちゃ。




 一通りマッサージが終わるころには、優太さんはすっかり熟睡していた。これで少しは疲れがとれるかな。

 毎日遅くまで働いて、1日しか休みが無いなんてかわいそうだし私が癒してあげたい。

 寝返りを打って横向きになってグッスリと眠っている優太さんの寝顔を見つめる。



 ......本当は、もっと近い関係になりたいけど、それは叶わない。優太さんはいっぱい我満して傷ついてつらい思いをしてきた。

 だから私からは言えない。

 優太さんに好きになってもらうために積極的になっているつもりではあるけど、実際どこまで効果があるのかは恋愛経験の無い私には分からない。

 友梨は大丈夫って言ってるけど、何が大丈夫なのかは不明だ。




 優太さんの隣に寝転んでみる。

 優太さんの家のベッドと違って1人用だから2人で寝転ぶとどうしても距離が近くなる。

 相手は寝ていると分かっていても恥ずかしいので、顔を見ないようにそっと優太さんの胸元のあたりに顔をうずめる。

 優太さんの鼓動が聞こえてきて、密着してみる。あたたかくて、いい匂いがする。私は無意識のうちに優太さんの背中に腕を回していた。

 優太さんに包まれていると、ドキドキもするけどすごく落ち着く。



 そろそろ、離れないと......でも、あと少し............今だけだか、ら............。










 *     *      *





「——ん」


 いい匂い。柔らかい。


 なんだろう、いつもと違う。



 目を開けると見慣れた光景ではなかった。

 これは......どういう状況だ?


 そうだ。昨夜夕飯食べた後、撫子にマッサージしてもらって、そのまま寝ちゃったのか。

 でも......


 なんで


 俺がベッドで寝ちゃったから場所が無くて仕方なくってところか。

 シングルベッドだしそこで2人で寝ればうっかり抱き着いちゃうこともある......のか?

 これはどうすればいいのだろう。起こすに起こせないよなあ。すっごい幸せそうな顔で寝てるし。

 かといってしっかりホールドされているから起こさずに脱出するのも難しいだろう。これ詰んでね?


 逆に考えろ。ハグ自体は毎日してるしお互い寝顔も見たことある。つまりこれもセー......いやアウトだろ。


「んぅ」


 脳内で葛藤していると撫子が身じろぎした。俺は体が強張るのを感じた。


「あれ?ゆーたさんだぁ。えへへ」


 寝ぼけているのか、俺の胸に顔をこすりつける女神様小悪魔。俺のライフがゴリゴリ削られていく。


「撫子」


 たまらず声をかける。


「なぁに?ゆうたさん。............え?......あれ?」


 ようやく状況を把握し始めたのか、幸せそうな表情は真っ赤になって真っ青になった。


「へっ?なんで優太さんが?あれ?」

「昨日マッサージしてもらってたとこまでは覚えてるんだけど、多分そのまま寝ちゃったみたい」

「あ、そういえば......。ご、ごめんなさい!ここここれはその、違うんです!」

「とりあえず落ち着いて。これは不可抗力だから。俺がベッド使っちゃって寝る場所が無くて仕方なくでしょ?大丈夫だから」

「うう......。そうだけどそうじゃないの......」

「撫子のおかげですごいスッキリしてるし、感謝してる。撫子がいてくれて本当に良かった」

「それは良かったけど......」

「ところでそろそろ起きない?」


 こうして会話している間も俺は撫子にホールドされたままなので起き上がることも出来ない。


「〰〰〰〰っ」


 撫子は指摘されてようやくその事実に気が付いたようで口をパクパクさせている。

 パニックになっているので、撫子の腕をつかんでゆっくり離す。なんか悲しそうな顔をしているような気もするが気のせいだろう。

 先にベッドから出て手を差し伸べると、撫子は飛びついてきた。朝から元気だな。


 マッサージのおかげで体もかなり軽くなったし、これならあと1週間頑張れるな。




 さーて、今日は何しようかな。お礼も兼ねてゲームでもなんでも撫子の好きなことに付き合うとするかー!


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