第35話 観覧車



 まずは右手に伸びた道を2人そろって歩いていく。

 そんな俺たちをさっそく並木道が出迎える。ゲートで貰ったパンフレットを見てみると梅の木らしい。


「赤と白の花が交互に並んでて綺麗......」

「梅の木だってさ。並木道って桜のイメージがあるけど、いい匂いだな」

「へー!梅ってこういう花なんだ。梅って好き嫌い別れるだろうけど、私もこの匂い好きだなぁ」


 目でも鼻でも楽しめてなかなかいいものだ。



 それから歩いて立ち止まってまた歩いて花々を楽しんだ。黄色一面の菜の花畑に色とりどりのアネモネ。そして桜並木。


「うわ~!満開の桜!すっごい綺麗......」

「これは壮観だな」


 ピンク一面の桜並木。毎年会社近くで見ている桜より若干赤みが強い気がする。これはこれで綺麗だな。

 今はこれだけ咲き誇っているが、少し経てば散って地面に落ちるのだろう。そんな桜の絨毯を見るのもいいかもしれない。



 途中にはアスレチックや音楽に合わせて地面から湧き出る噴水があって、子供たちが遊んでいた。老若男女が楽しめる工夫がされている。それも人気の秘訣なのだろう。


 ゆっくり園内を1周して入口に戻ってくる。

 途中にあった茶屋で花を眺めながら休憩したりもしたからかなり時間は経って現在17時少しすぎ。ちょうどいい時間だな。


「撫子、観覧車乗ろうか」

「......っ!うん!」


 タイミングが良かったのか、思ったより空いていた列に並んでゴンドラに乗り込む。

 徐々に高度を増していくにつれて園内を見渡せるようになる。


「優太さん!あっち、最初に見た梅の木!上から見てもすっごく綺麗!」

「へえ、上からだと幹や枝の色が見えない分紅白の違いが際立つな。お、あっちの桜もすごいぞ」


 ソメイヨシノよりもやや赤みが強いピンク色の桜並木は、夕焼けを受けてさらに色を変化させていた。こういうのを絶景と呼ぶのだろう。

 観覧車は外から見てると、なんであんなにゆっくり動いていているんだろうって思っていたが、実際に乗ってみるとむしろもっとゆっくりでもいいと思えてしまう。

 それはこの美しい景色のせいなのか、それとも一緒に乗っている人のせいなのか......。

 普段はSNSなどもやらずスマホのカメラ機能など飾りくらいにしか思っていないが、今日は人生で一番酷使したと思う。



 名残惜しさと共にゴンドラを降りてお土産屋さんへと向かう。

 店内には花やパークオリジナルキャラクターのストラップやマグカップ、Tシャツ、お菓子類など定番のお土産のほか、写真集や花の香りがするハンドクリームや紅茶なんかもあった。

 花の香りはここの景色を思い出すことも出来るしリラックス効果もありそうだ。

 こうして見るだけでもなかなか楽しめるな。


「撫子、何か買う?」

「うーん、迷うなぁ。......ねえ、優太さんってスマホにストラップとかつけてないよね?」

「うん。寂しい気もするけど特に付けたいものも無くてね」

「なら一緒にストラップ買わない?」

「俺はもちろんいいけど......」

「ふふ、またお揃い増えるね。どれがいいかなぁ」


 撫子は嬉しそうに、これはどうかと次々に手にとっては見せてくる。

 以前はその相手が俺でいいのかななんて思っていたが今はこの笑顔を見られるなら撫子の望むままにかなえてやりたいと思う。

 

 時間をかけてストラップを選んで会計をしてから店を出る。

 思ったより時間が経っていて、空はすっかり暗くなっていた。





「優太さん、もう1回観覧車乗らない?」


 そろそろ帰ろうかと思っていると撫子からそんな提案をされた。

 そういえばパンフレットにも夜はライトアップされるから昼間とは違った様子が見られると書いてあったな。

 当然承諾して先ほどよりも空いていた観覧車に待つこともなく乗る。

 俺が座ると、撫子が隣に座ってきた。さっきは対面に座っていたのに。


「このほうが同じ景色見られるでしょ?それに一緒に写真も撮りたいし……。あ、上ってる間にストラップ付けよ?」


 やや苦戦してようやくストラップを付け終えると、観覧車はすでに半分の高さまで上がっており園内が見渡せるようになってきた。


「うわぁ!ライトアップされてるのも綺麗……」


 花が咲いている場所では無駄な照明は無く、花を照らすためのライトがほとんどだ。あくまで主役は人ではなく花ということなのだろう。

 梅や桜などの木は下から照らされているが、それは上から見ても綺麗な色合いになっている。そこまで計算されているんだろうな。


「これはまたすごい。明るい時とは違う花に見える……。他の季節の花も見たくなるな」

「そうだね。......また、一緒に来たいな」

「ああ」



 またというのがいつになるのか分からないけれど、彼女と一緒に色んな季節の花を楽しみたいと思った。


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