第36話 お返しとハグ
「撫子、これ受け取ってほしい」
「なーに、これ?」
「......ちょっと早いけど、バレンタインのお返し」
「え!?ホントに!?え、ありがとう!......中見てもいい?」
「それはもちろんいいけど」
貰ったからお返しは当たり前だと思うんだけど急にテンション上がったな。
「なにかななにかな~。あれ?2つもあるよ?」
両方とも包装してあって中身は見えないがサイズが違うものが2つ入ってる。
「どっちも撫子のだよ。開けてみて」
「じゃあ......こっちから。......わぁ!マカロン!」
「さすがに俺は手作りは出来ないからさ、せめて普段食べないようなもの選んだんだ」
「すごい!マカロンって食べるの初めてなんだ!後で一緒に食べようね」
とりあえず喜んでいるようだ。珍しさで選んだけど、苦手とか言われたらどうしようかと思った。
「もうひとつは何かな~」
鼻歌を奏でながら包装を解いていく撫子。ご機嫌だ。
「ハンドクリーム!」
「いつも料理して貰ってるからさ。先週行ったフラワーパークで買っておいたんだよ」
「あ、だからお花の香りなんだ。......クンクン、いい香り......」
早速フタを開けて香りを堪能している。
肌のケアだけじゃなくて、香りでリラックス効果もある。外でも使えるし、手からいい匂いがするというのはうれしいかなと思ってこれにした。
しかし、撫子ってハンドクリームとか使ってるの見たことないけど、手とかすべすべなんだよな。どういう肌の構造してるんだ。まぁ女神様だし当然なのかな。
「嬉しい......。大事に使うね」
「うん。ホントは当日に渡したかったんだけどさ、ちょうど週明けから仕事が忙しくなるんだ。帰りも何時になるか分からないから、ご飯も用意しなくて大丈......夫」
撫子の顔がシュン......となったかと思ったら一気に泣きそうな顔になってしまった。
「......ご飯、一緒に食べないの?」
「そりゃ一緒に食べたいけど、この時期は仕方ないよ。去年も20時とか21時とか帰ってくるのそんな時間だったし......」
「それくらい大丈夫だよ?私春休み中だし。それに、忙しい時こそ栄養ちゃんととらないと倒れちゃうよ?」
「それは......そうだけど」
「だから、ご飯は一緒に食べよ?作って待ってるから。......私も1人で食べても寂しいし」
「......分かった。なるべく早く帰れるように頑張るよ」
上目遣いでそんなこと言われたら断れないじゃないか。
まぁ、たしかに栄養が必要なのは事実だ。去年までは帰りに牛丼かきこんで帰るかカップ麺で済ませてたしな。
「無理はしないでね。私に出来ることならなんでもするから」
あんまりそういうことは言わないほうがいいと思うけどなぁ。
月曜の朝からはやはり激務だった。ただ例年と違ったのは、撫子のおかげか頭もよく回るし効率が上がっていることだ。
まあ俺1人がいくら頑張ったところで、他の人や部署の進捗もあるからようやく退社したのは20時過ぎだった。
撫子に連絡を入れて電車に揺られる。いつもと違ってさすがにこの時間は空いているから座れるのは助かる。
いつもならシャワーを済ませて着替えてからお邪魔するが、そうすると撫子を余計に待たせてしまう。
なのでこのまま直接撫子の家のインターフォンを鳴らすことにした。
「おかえりなさい、優太さん」
すぐに笑顔の
「ただいま」
後ろ向きで靴を脱いでリビングに向かおうと振り向いたが、撫子がその場に立ったまま歩きだそうとしない。
それどころか、ほほえみながら両腕を広げて何かのポーズを取っている。
救いを与える女神のポーズかな?拝めばいいのだろうか。それともお布施か……。
と悩んでいると撫子が口を開いた。
「……ハグをするとストレスが3割減るらしいよ?」
それは聞いたことがある。30秒ハグすると効果的だとか何とか。
……で、それをすると?俺と撫子が?
カップルや夫婦なら分かる。けど俺たちはどちらにも当てはまらない。
ハグしたらセクハラとかで通報されない?撫子がそんなことをする人では無いことは分かってはいるが。
「……ハグしないとお夕飯抜きです」
動こうとしない俺に向かって撫子が脅し文句を述べる。
さすがにそれは困る。疲れきった体はもう撫子のご飯抜きでは生きていけない。いや疲れていなくても同じだけど。
仕方なくカバンを置いて、両腕を撫子と同じように広げて1歩踏み出す。
同じく撫子も1歩近寄ってきてお互いに背中へ手を回す。
「今日も一日お疲れさまでした」
「......ありがとう」
撫子の体温と、胸元に破壊力抜群の弾力が伝わってくる。
前から思ってはいたけど、間近で見るとその大きさがよく分かる。だって潰れて変形しているんだもの。
柔らかいしサラサラだしいい匂いだし理性を保つのがこんなに大変だとは。
ていうかこれ、いつまでするんですかね?とっくに30秒は過ぎているんだけど……。
「撫子?」
身長差の都合上、ハグをすると俺の口が撫子の耳のあたりにあたる。
つまりは自然と耳元で囁く形になってしまい、撫子がビクッと震える。
「……それはダメ。罰としてもう少しこのままでいて」
耳を真っ赤にした撫子がギューッとしがみついてくる。
結局ハグは、俺のお腹の音が鳴るまで続けられたのだった。
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