第34話 春の訪れ
「優太さん、今週末って土日どっちか空いてる?」
「特に予定は無いからどっちも空いてるけど……」
「それなら、一緒にフラワーパーク行かない!?」
予定が無いと分かるとパァっと顔を輝かせて提案をしてきた。
フラワーパークか。まさか撫子から誘われるなんてな。
まだ果恋と付き合いたての頃、テレビで似たような場所の特集をやっていた。
こんなとこに行くのもいいなと思っていたのだが、果恋は「花ばっか見て何が楽しいの?」と呟いてチャンネルを変えてしまったことがある。
「もちろんいいよ。たくさん歩くかもだから土曜日に行こうか」
「うん!それなら日曜日は休めるしね」
帰ってさっそく調べてみると、ここから車で1時間と少しの場所にある。規模が大きくて全国的にもわりと有名な所だ。
ここでは季節によって花を植え替えていて、1年を通して楽しむことが出来るらしい。
今の季節はっと.....。3月に入ってだいぶ暖かくなってきたので色々な花が咲き始めるようだ。
今年は例年に比べて暖かいとニュースで報じていたが、なんか毎年のようにそんなことを聞いている気がする。たしかに今週は初夏のような陽気で、ほんのり汗をかくような日が続いているが......。
そして待ちに待った土曜日。
雲ひとつなく——とまではいかないが天気はいい。
お昼に撫子の手料理をご馳走になってから車に乗って出発した。
「いつも車出してもらってごめんね。私も運転できれば良かったんだけど......」
「気にすることはないよ。いつもご飯作ってもらってるし、運転するのは好きだしね」
「私も免許取ろうかなぁ」
「免許はあれば身分証にもなるし便利だけど、安くは無いし車買うのにもまたお金かかるからな......」
学生のうちに免許を取るとなるとほとんどの場合親にお金を出してもらうのだろうが、特にバイトもしてなくて家賃も払ってもらっているとなるとさすがに頼みづらいだろうな。
撫子が実は動画投稿とか何かバイトしてなければ、の話だが。美人JD料理研究家みたいな肩書なら料理動画とかレシピ集とか余裕で稼げそうなものだが。
「ま、言ってくれれば車くらいいつでも出すよ」
「ありがとう」
「そろそろ着くみたいだけどやっぱり混んでるなぁ......」
「いい天気だもんね。朝から来た方が良かったのかな?」
「お昼時は太陽が真上にあるから写真映えがあんま良くないらしいよ。ピークはちょうど1か月後くらいらしいから油断したな......」
「1か月後?もう暖かいけどまだ見ごろじゃないの?」
「ああ、季節ごとに咲いてる花が変わるらしいんだけど、あと1カ月も経つと丘一面のネモフィラが満開になるんだってさ。今だと、菜の花、アネモネ、梅に一部の桜とかが見ごろだったかな」
「へー!わざわざ調べてくれたの!?菜の花にアネモネも気になるけど、桜ってもう咲いてるの?それこそ来月が見ごろだと思ったけど......」
「場所を調べた時についでに見ただけだよ。桜はなんて名前だったか忘れたけど早咲きのがもう咲いてるらしいよ」
サクラの種類などソメイヨシノくらいしか聞いたことがない。
名前がなんにせよ、コンクリやらなんやらで埋め尽くされているこの時代に、花をじっくり見る機会なんて無いし楽しみだ。
雑談をしながら渋滞を耐えてようやく中に入ることが出来た。
チケット売り場にも列が出来ていたが、俺はあらかじめインターネットで購入していたのでそこはスルーして入園することが出来た。
入場ゲートをくぐると大きな広場に出た。振り返ってみるとゲートの隣にはレストランやお土産屋さんなどの建物が立ち並んでいる。
お昼ごはんは食べたしお土産は帰りに買うから後回しだ。正面を向き直ると『welcome』と書かれた看板が花壇に囲まれていた。
その向こう側に見えるのは遊園地にあるような巨大な観覧車。この広大なパークを上から一望出来るらしい。
他にもアトラクションがあって、
「さて、ここには園内を1周する列車も走ってるみたいだけど、どうする?」
「うーん......せっかくだし歩いて回りたいかなぁ。元々歩く予定だったし列車じゃ見れない場所もあるかもだし」
「じゃ、歩こうか」
歩いたほうが自分たちのペースで見物できるしな。
道が左右にあるが、特に順路は決まっているとかはないようだ。
なんとなく人の流れに乗って歩き出そうとすると、撫子が俺の手を掴んだ。
振り返ると、ややモジモジして上目遣いで見ている。
俺が迷うことなく握りかえすと、笑顔が咲いた。
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