第33話 誕プレと涙



「優太さん、今日もゲームしに行っていい?」

「......あー、ごめん。今日もこの後ちょっと出かける用事あるんだ」

「あ、そっか......じゃあ仕方ないね」


 そんな、いかにもな悲しげな表情されたらダメと言えないじゃないか。ペタンと倒れる犬の耳が見えそうだ。


「でも、それが終わってからで良ければゲーム出来るけど」

「......っ!ほんとに!?いいの!?」

「うん。なるべく早く帰ってくるから」

「分かった!待ってるね」


 今度は急に嬉しそうな表情で耳もピーンと立っている。こんなキャラだったっけ。






 それから2時間少しかけて何か所か回って帰宅した。事前に調べていたこともあって思ったより早く帰って来れた。




「お邪魔します。......え!優太さん、これって......」


 準備を終えて撫子を呼ぶと、驚いていた。

 そこには色違いの座椅子が2つ、横長の炬燵に隣り合って置かれていた。

 しかもただの座椅子ではない。ゲーミング座椅子というやつだ。


 普通の座椅子と違うのは、シートに凹凸があるということだ。

 それによって、ゲームなどで長時間同じ体勢でも疲れにくく、さらには正しい姿勢を維持する効果もある。

 それぞれ黒とベージュを基調としており、180度リクライニングに360度回転機構、今はシートと同じ角度に跳ね上げてあるが可動式のアームレストも完備。ヘッドレストや腰を支えるためのランバーサポートも調節可能。

 四角いクッションも付属していて足置きや腕置き、枕としても使える。

 これだけの性能があるためお値段は高めだが、冬のボーナスは手つかずで残っていたし、使いやすさと色に惚れて買ってしまった。


 元々座椅子は持っていたのだが、果恋に奪われた挙句ボロボロにされてしまったので部屋を整理した際に処分したのだ。

 それ以来ソファや座布団で過ごしていたのだが、この機会に買って更にグレードアップしようと思った次第だ。


「さ、座ってみて」

「あ、うん......え、なにこれすごい」


 俺も試しに座ってみたのだが、座り心地が抜群なのだ。炬燵との組み合わせはまさに悪魔的だ。


「これでゲームもしやすくなったでしょ」

「それはそうだけど......こんなすごいのもらえないよ......」


 そう言われると思って黙って買ったんだ。本当はどれがいいか相談して決めようかとも思ったんだけど。


「そう言わずにさ。撫子のおかげでお金にも余裕あるし、健康的にもなって仕事もすごく調子いいんだ。だからそんなに高い買い物とは思ってないんだ。せっかくのお揃いだし、使ってくれると嬉しい」

「......優太さんのばか。ありがとう」

「それと、こっちは誕生日プレゼントね」


 ラッピングされた袋を差し出す。


「......えっ?だって、この椅子」

「まぁ、日頃のお礼と、クリスマスに買ったペアグラスって俺も使うものだしさ。それもひっくるめて。それに、20歳の誕生日だしいくらあってもいいでしょ」

「......開けても、いい?」

「もちろん」


 壊れ物でも扱うかのように慎重にラッピングを解いていく。外装はそんなに丁寧に扱わなくてもいいんじゃないか?


「これ......あろま、らいと......?」

「うん。何にするか迷ったんだけどさ、これが無難かなって。アロマキャンドルと違って火も使わないし、他の種類より香りも優しいんだ」


 アロマ系のグッズというのはわりかし早い段階で決まったのだが、このへんの違いを調べるのに時間がかかった。

 キャンドルだと火を見ているのもリラックス効果があるのかもしれないが、火事になる恐れもあるし溶けきったら交換しなければならない。

 その点ライトなら火事の心配も無いしコンセントに繋げていればずっと使える。充電機能もあるのでコンセントが届かない場所でも使えるし、停電が起きた時には非常灯としても役に立つ。

 あとはその中で、香りが強くないものを選んできた。4種類入っているみたいだし好みのを選べるのも良い。


 説明すると、撫子の瞳から涙が一粒流れ落ちた。


「......撫子?」

「......っ!ご、ごめんね。優太さんが......私のためにいっぱい、考えて選んでくれて......嬉しくて......」


 涙が堰を切ったように流れ出る。

 撫子が手に持ったままのアロマライトの箱と炬燵の上のティッシュの箱を交換しようと身を乗り出したら、撫子が俺の胸に飛び込んできた。

 ああ、うん。泣き顔見られるって思ったのかな。俺の胸でよければいくらでも貸すけど。

 そのまま撫子が泣き止むまで背中をポンポンと優しくたたいた。




 しばらくして泣き止んだ撫子は、上機嫌で未開封のアロマライトを眺めていた。鼻歌でも聴こえてきそうだ。

 まあ喜んでくれたならよかった。


「ゲームはどうする?やめとくか?」

「する!」


 すぐに帰って使いたいのかなと思っていたがゲームはしたいようだ。せっかくゲーミング座椅子もあることだしな。


 しかしここでまた予想外のことが起きた。


 スマシスのソフトをセットし電源を入れて自分の席に戻ると。撫子が上に座ってきた。

 何の上って?俺の上に。なんでやねん。


「......撫子、せっかくの座椅子使わないの?」

「......今日はここがいい」

「そっか」


 泣いた後だし顔を見られたくないのかな。




 夕飯の時間まで、上機嫌な女神様とゲームに興じるのだった。


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