第29話 進捗(※早乙女視点)



「はぁ〜〜〜……」


 帰宅してそのまま溜息をつきながらベッドにダイブする。今日はお昼すぎから大好きな親友の撫子と買い物してカフェでお茶した。

 まぁ1番の目的は、先日の撫子と西成さんのデートの報告なのだが。

 撫子が自分の気持ちに気付いてから色々とアドバイスはした。だからその結果について報告を聞く義務があたしにはある。



 色々とアドバイスもしたし撫子もハプニングはありつつも勇気をだして仲は深まっている。撫子の天然も今のところはいい方向に作用している。

 まだ付き合ってもいないのに、手編みのマフラーをプレゼントしたりお揃いの物を買うなんてそうそう出来ることじゃない。マフラーに関してはあたしが冗談半分で言ったのを本気にしちゃったんだけど。

 スキンシップを取れとは言ったけど、膝枕とか膝の上に座るなんてあたしでもやったことないわ。

 天然が過ぎるしそれを受け入れる西成さんも西成さんだわ。よくそれで理性保っていられるな。悟りでも開いちゃってんの?

 顔を赤らめて報告してくる撫子が可愛いからいいけど。じゅるり……おっと。




 で、先日のデートだ。透さんを通じてけしかけたけど、まさかその日のうちに向こうから誘ってくるとはなかなかやるじゃない。その気があるってことかな?

 結果はどうやら大成功だったようでご満悦の表情だ。だけど詳細を聞いていくうちにあたしは顔が強ばるのを感じた。


 まず会ってすぐに髪型や服装を褒められた、と。やるじゃん。

 可愛いとか綺麗とか素直に言えるのはポイント高いよ~。あたしも朝から押しかけて髪とか服とか手伝った甲斐があるってもんよ。


 映画の時もあたしがコーディネートしたけどその時は美人さを前面に出した大人っぽいコーデ。

 だけど今回は逆に可愛さをアピールしてどっちの路線もいけることをアピールしつつも西成さんの好みを把握しようという作戦だ。

 素材がいいと何しても似合っちゃうから逆にどうしようか迷うよね。


 撫子がまだ免許無いから車を出してくれるのは分かる。毎日一緒に過ごしているのに会話が途切れずに続くってのは羨ましい。それだけ相性がいいんだろうな。

 撫子曰く、運転も上手いらしい。あたしはまだ運転上手くないから乗ってみたいな。


 で、水族館のチケットはオンラインで購入済みで並ばずに入った。

 駐車場や館内では撫子が人とぶつからないようにさりげなく人がいない側を歩かされた。

 歩くペースを合わせてくれるのは普段からで、下調べもちゃんとしてイルカやアシカショーもちょうどいいタイミングで見れた。

 極めつけは、帰りが遅くなるから夕飯を外で食べたけど、撫子が御手洗行っている間に会計を済ませたと。


 ありえんくない?なにその完璧なエスコート。聞いたことないわ。

 撫子も普段より積極的になって、私から手繋いじゃったと顔を赤らめてモジモジしながら報告してきた。グッジョブ。



 あたしは初詣に行った時に、西成さんの同僚という透さんと話して連絡先を交換した。

 一緒にいた紗雪さんの、西成さんを見る目が恋する乙女だったからそっちの味方かと思ったが、本人曰く「俺は優太の味方だから」らしい。

 それで情報交換して、西成さんの元カノが厄介な人だったと聞いてはいる。

 だからある程度は女慣れしてるかもしれないとは思っていたけど、まさかここまでとは思わないじゃん?


 相手のことを考えて行動できるという点では文句はない。あとは気持ちも察してくれれば完璧なんだけどなぁ。

 透さんの「相手のことよく見てるけど見えてない」という言葉が的を射ている。




 あたしは報告を全部聞いたあと、撫子の両肩に手を置いて言ってやった。


「いい?あんた必ず西成さんを落としなさい。あれが普通なんて思っちゃダメ。逃したらアンタを満足させられる人間なんていないと思いなさい」


 撫子は今まで恋愛をしたことがなかったから比較対象がいない。まさか最初の相手がそんなハイレベルなエスコートをしてくるなんて運がいいのか悪いのか……。

 見た目は悪くはないけどパッとしないなぁ……なんて思ったけど、趣味も合うみたいだしこれ以上の相手などいないだろう。

 普通は7つも年齢差があればジェネレーションギャップで会話も合わないはずなんだけどなぁ。


「落とすって言っても難しいよ……。優太さん、私の事どう思ってるんだろ」

「もっとスキンシップを取りなさい。でも黙ってやってもダメ。西成さんだから気を許してるってことをアピールするの。あとはそうね……もう既成事実でも作っちゃいなさい」


 それが1番手っ取り早いだろう。西成さんの欠点は奥手なとこだ。面倒くさいからさっさと襲ってしまえ。

 撫子はともかく西成さんは経験あるんだし、おっぱじめちゃえばあとはどうとでもなるでしょ。


 そもそも、今ですら毎日手料理振舞っているんだから。

 これってなんていうの?通い妻というか通い夫?通わせ妻?そんなに一緒にいるならいっそのこと同棲しちゃえばいいのに。

 婚姻届けならあたしと透さんで署名するよ?

 ......それを額縁に入れて飾ってニヤニヤ眺めている撫子を想像してしまった。ヤバい。



 西成さんが今の状況に慣れすぎているという可能性もあるから、少し距離を置いてみるって手もあるよとこないだ聞いてみたのだが、即答で拒否されてしまった。

 年末、西成さんが忘年会で会わなかった日があり、それだけでも寂しかったらしい。いや大好きすぎだろ。慣れすぎているのは撫子のほうだったらしい。




 幸い、今はまだ1月。来月になればあのイベントだってある。

 さぁて、どうしてやろうかね。もう手加減してやらないんだから。


 まずは敵の情報ね。あたしがこの目で直接確認してやろうじゃないの。


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