第28話 水族館と進展
今日の東雲さんも、映画に行った時のようにオシャレをしていた。
「今日は服も髪型も映画の時とも違って可愛いね」
映画の時は美人系という感じだったけど、今日は可愛い系だ。
髪も編み込みでハーフアップにしている。すごいな、どうやってるんだろ。
「あ、ありがとう......。前の時と、どっちが......好き?」
「うーん。それは難しいな。いつもの落ち着いた雰囲気も好きだけど映画の時も今日も新鮮だし。あ、でも一番ドキッとしたのは今日かも」
「うぅ......ありがと。......西成さんもカッコいいよ?」
「そうかな、ありがとう。俺はオシャレとか疎いから透に手伝ってもらったんだ」
わざわざ仕事終わりに付き合ってもらった甲斐があるというものだ。まあ半ば無理やり連れていかれたんだが。
「水族館、楽しみだね」
そう言って微笑む東雲さんはとてもかわいい。
今日行くのは、車で2時間ちょいの場所にある大きめの水族館だ。
そこは日本一クラゲがたくさんいるらしい。それが決め手だ。
東雲さんとゲームやら映画やら色々と話していたら到着した。移動の時間も楽しく過ごせるのはいいなぁ。
「さ、行こうか」
「え、あれ?チケットは?」
真っ直ぐ入場ゲートへ向かう俺とチケット売り場を交互に見る東雲さん。
「ああ、チケットはもうネットで買ってあるから大丈夫だよ」
混雑緩和のためか、ネットで買うと割引があるのだ。
実際、チケット売り場は大勢の客で混雑していた。まあ皆屋内で過ごしたいよな。
ゲートへスマホをかざして入場した俺たちを巨大な水槽が出迎えた。おお、いきなりすごい迫力だ。
そしてその水槽に群がる人の数もまたすごい。後ろからでも見えるように大きくしてるのかな。
「けっこう人たくさんいるんだね」
「考えることはみんな同じだな」
「西成さん......はぐれないように手、繋いでもいい?」
「もちろんいいよ」
差し出した俺の手を東雲さんが握る。手小さいなぁ。離さないように握りかえす。
手を繋ぐのが久しぶりだからって汗かくなよ、頼むぞ俺の右手......!
順路に従って移動してみると、人より少し高いくらいの水槽とそこにいる魚の説明があった。
「へぇ、タラってこんな見た目なんだ」
思わずおいしくいただいた鍋のことを思い出してしまう。
これが東雲さんの手にかかればあんなに美味しくなってしまうのか。いや捌いたのは東雲さんじゃないけども。
「こっちにいるのはクマノミだって!綺麗......」
「おお、一昔前に映画で流行ったやつか。へえ、カクレクマノミだけじゃなくて色んな種類がいるんだ」
「クマノミって生まれた時には性別が無いんだって。不思議だね」
水槽の手前に設置されている説明板によると、群れの中で体の大きさの順位によってオスメスが分かれて繁殖するらしい。
臨機応変に性別変えれるなんてすごいな。
「ねえ西成さん!このお魚、オジサンって言うんだって!」
「え?」
聞き間違いかと思って見てみると、たしかにオジサンと書かれている。
何歳か分からないが、勝手にオジサン認定されてしまうとはかわいそうな魚だ。
「......オジサンがいるならオバサンもいるのかな」
なんか東雲さんがすごいことを言い出した。とりあえず近くを見て回るもそれらしい説明の魚はいない。
スマホで調べてみると、なんとヒットした。
「オバサンって名前もいるらしいよ。しかもナントカオバサンみたいなのも含めていっぱいいるみたい」
「あはは、魚なのにおかしいね」
突如薄暗い部屋に入ったと思ったら、そこがお目当てのクラゲルームだったようだ。
「うわぁ......すごい......」
これは確かにすごい。照明は最低限なのにクラゲが光っていて部屋が照らされている。
青、白、赤褐色、ピンク、中にはカラフルなものまでいる。これは面白いな。
奥へ進むと特別展示コーナーという別の部屋があった。係の人にスマホの画面を見せて中へと進む。ここが今日のメインだ。
普通のチケットだけでは入れない特別な部屋。俺はもちろんセットのチケットを購入していた。
そこではモニターでクラゲの生態や種類を学べる。
「え、クラゲって泳げないの!?」
「泳ぐ力はあってもすごく弱いみたいだね。あれって漂ってるだけなのか......」
「それに、クラゲって元からあんな形じゃないんだね」
「最初は全然違う形の生き物だったな」
「見て!あのクラゲすっごく触手長い!」
「なんだありゃ、イカみたいだな。......こっちになんか瓜みたいなのいるぞ?動いてるしこれもクラゲなのか?」
「本当だ......ウリクラゲって書いてあるよ。そのまんまだね、ふふふ」
そして部屋の一番奥には人1人が通れるだけの穴が開いており、そこをくぐると別世界だった。
「わぁ......」
そこは今入ってきた穴以外の全周囲が球状のガラスになっている。つまり、文字通りクラゲに囲まれているのだ。
まるで本当に海の中にいるかのような幻想的な光景は、たしかにお金を払う価値がある。
俺たちは2人きりになった世界で、手を繋いで立ち尽くしていた。
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