第27話 相談
「優太、今日定時で上がれそうだし飲み行かね?」
「いいけど、少しだけだぞ」
「そんなに早く帰りたいなんてなぁ。羨ましいこって」
「わざわざ飯作ってくれてんのに待たせたくないだろ」
「か~!飲みに行くのに飯は家で食うってのが信じられんわ」
「......それは俺の勝手だろ」
年末に会社の忘年会があり、今回は上司にも声をかけられたので参加したのだが、東雲さんが少し拗ねてしまったのだ。
直接何か言われたというわけでは無いが、翌日夕飯を食べに行った時に元気がなかった。
「やっぱり店で食べるより東雲さんのご飯のほうが美味しいから、飲みに行ってもご飯は食べたいな」
と言ったら機嫌を直したみたいだけど。
毎日一緒に過ごしているから少しでも寂しいと思っているのかな。
「それで?東雲さんとはどうなんだ?初詣の時はずいぶん仲が良さそうだったじゃねえか」
「どうって言われても。あ、そういやあの時トイレの後3人で楽しんでたろ。俺たちずっと待ってたんだからな」
「わりいわりい。でも東雲さんと2人で過ごせて良かったろ?いやぁ、それにしても噂の東雲さんがまさかあんな美人だったとはな......。そりゃお世話されたいよなぁ」
「目的は初詣だったんだからそういうのはいいんだよ。美人なのは認めるが、外見だけじゃねえぞ」
「ほぉん?デートは?もうキスくらいはしたんか?」
「だーかーら、付き合ってるわけじゃねえって言ってんだろ。出かけたのも映画と買い物くらいだし。あとは一緒にゲームしてるだけだ」
......膝枕はされたしした。なんなら膝の上にも座られた。とは口が裂けても言えない。
「優太は固く考えすぎなんだよなぁ。好意がなけりゃ毎日手料理なんて振舞わねえだろ」
「その好意が恋愛的なものとは限らないだろ。んなことより俺は日ごろの恩をどうやって返そうかで頭が痛いわ」
「恩返し?誰に?」
「この話の流れで東雲さんしかいないだろ。毎日弁当も夕飯も作ってもらって、クリスマスプレゼントだって貰うだけ貰ってお返しも微妙だし......」
「貰ったってあの毎日自慢げに巻いてるマフラーだろ?お返しって何あげたん?」
「自慢げって......貰ったら使わなきゃもったいないし失礼だろ。お返しっていうか、使いやすそうなペアグラス?買っただけ。でも俺も使うわけだしなんかなんか違うんだよなぁ」
「手編みのマフラーにペアグラス......。なるほどね、優太は相手のことよく見てるけど見えてないよなぁ」
「なんだよ。いきなり哲学か?」
「優太に言っても分からんな......よし。いいか?対価としてもうお金は払ってるんだろ?向こうはそれで十分だと思ってるだろう。だから欲しいものを聞いても答えてくれる可能性は低い。ここは......物じゃなくて思い出をプレゼントするんだ」
「......思い出?具体的には?」
今までさんざん、気持ちは物で表せって言われてきたんだけど?果恋のいうことが正しいとはあんま思わないけど、正直思い出と言われてもな。
「——デートだ。友達でもデートくらいしたっていいだろ?」
「つっても真冬だぜ?行くところなんてあるか?」
2人で過ごす=デートならば、週末一緒にゲームしたり映画を観たりしてるしな。むしろ毎日ご飯デートしているまである。
透が言っているのはそういうことじゃなくて、特別感をだせってことなんだろうがピンとこない。
行き先も分からず連れまわされて言われるがままにアレコレ買わされるのならよくあったけど。
「そうだな......。あまり騒がしいのは2人とも苦手だろうし、温泉——は無理か。水族館あたりでいいんじゃないか?屋内だしまったりできるだろ」
「水族館か。それはいいかもな。とりあえず誘うだけ誘ってみるわ。さすが透は頼りになるな」
「それはいいけどよ。あ、俺が言ったって紗雪には言うなよ?」
「紗雪?まぁわざわざ言うことはないと思うけど......」
何かマズいのか?他の女と温泉行ったとか?ま、俺には関係ないか。
「......あいつにゃ悪いが、俺は優太の味方だからな。頑張れよ」
「よくわからんがサンキューな。今日は俺に奢らせてくれ」
「いいのか?ラッキー」
水族館か。高校生の時、修学旅行で行って以来だな。デッカい鮫を見た記憶くらいしか残っていない。
まぁ暖冬だとか言われていても普通に寒いし、屋内というのはいいな。
あとは東雲さんがオッケーしてくれるかどうかだ。
「東雲さん、もし都合が良ければだけど......週末一緒に水族館行かない?」
「え!?行く!」
さっそくその日の夕食時に緊張しつつ誘ってみると、あっさりというか食い気味にオッケーがでた。
調べてみて分かったのだが、水族館って場所によって規模も飼育している生物も全然違う。
大きいところだとイベントなんかもけっこうやっているらしい。
東雲さんにサイトを見せながら相談すると、あっちもいいこっちもいいと行く前から盛り上がってしまった。
悩んだ末に、クラゲが見たいという東雲さんの一声により行き先が決定した。
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