第26話 初詣



 突き刺さる視線に耐えながら歩き、コンビニに到着する。そこでようやく俺の両腕は解放された。

 透と紗雪は外で待っていたようですぐに合流出来た。


「おっす。待たせたな」

「「…………」」


 あれ?聞こえなかった?


「こちら、今日一緒に初詣に行く東雲さんと早乙女さん。で、こっちが宇喜多と皆実川」

「よ、よろしくお願いします」

「よろしくでーっす!」


 女子大生2人は挨拶をするが、対する2人は固まっている。


「おい、2人とも挨拶くらいしたらどうだ?」

「......透先輩。私夢見てるんですかね?」

「奇遇だな。俺も同じ事を思ったとこだ」

「何言ってんだお前ら……」


 と、いきなり引っ張られて端の方へと連れていかれた。


「おい優太どうなってやがる」

「優太先輩、あれは美人局つつもたせです。引っかかっちゃダメですよ」

「いきなりなんなんだよ。失礼にも程があるだろ。メッセージで言ったろ、友達だよ」

「いや、あれは芸能人クラスの美人だ。それが2人も。優太に寄ってくるはずが……」

「美少女枠は私一人で十分なんですけどぉ。くっそー、私も着物着てくればよかった」

「紗雪、向こうの土俵で戦っても勝てるわけないぞ」

「お前らいい加減にしろよ。置いてくぞ」


 東雲さんたちの元へ戻ると2人も慌てて戻ってきた。


「すいませーん!皆実川紗雪っていいまーす!紗雪って呼んでね!」

「宇喜多透です。今日はよろしくお願いします」


 ようやく挨拶してくれた。はぁ。先が思いやられる……。


 5人で広がって歩くと邪魔になるので透と紗雪と3人で歩こうとしたら、再び両腕をホールドされてしまった。はい、ボディーガードですね。すいません。

 片腕を引っ張りまわされるのは慣れていたけど、さすがに両腕が動かせないというのは不便というか非常に歩きづらい。

 透と紗雪は俺たちを一瞥してから2人でなにやらコソコソと話しながら先に歩き出しちゃうしどうなってんだよ。


 着物姿の2人に合わせてスローペースで歩くこと30分程、ようやく神社に到着した。両サイドから掴まれて視線に晒されて、まるで宇宙人にでもなった気分だ。


「うわぁ……やっぱりすごい人だな」

「ですね〜。先にお参りしちゃいます?」


 先に着いて俺たちを待っていた透と紗雪がそんなことを言った。まあ、並ぶのは先に済ませた方がいいよな。

 列に並びながら何を願うのか考えた。

 透は「こういうのは願望というより決意を報告するんだよ。叶えてもらうんじゃなくて見守っててくださいってな感じでな」と言っていた。

 たしかに一方的に叶えてもらうだけなんて都合が良すぎるもんな。


 まあ俺はそんな大層なことを願うわけじゃない。ただ、透に紗雪、東雲さん、早乙女さん、みんなが健康で楽しく過ごせればいいと思う。

 俺の健康に関しては東雲さんに管理されてるようなものだけれど。




「みんなお参りは終わったね?」

「撫子〜?熱心に何をお願いしてたのかな〜?」

「べ、別に普通だよ!」

「優太先輩は何を願ったんですか〜?」

「俺はみんなが健康で楽しく過ごせますように、かな」

「えー、なんか地味ですね〜」

「別にいいだろ」








「撫子、トイレは大丈夫?」

「あ、うん。大丈夫かな」

「じゃ、私ちょっと行ってくるね」

「あ、私も行く〜!」

「俺もついでに行っとこうかな。優太は東雲さん頼むぞ」


 そんな会話をして3人は連れ立ってトイレへ向かっていった。透がいれば大丈夫だろう。俺はその間、東雲さんをちゃんと守らないとな。




「……初詣、一緒に来れて良かった」

「それは俺も。着物姿まで見れるなんて思わなかったよ」

「友梨のお母さんが着物を扱うお仕事してるから貸してもらったの」

「へえ。こう言っては失礼だけど、意外だな」

「うん。私も初めて聞いた時はビックリしちゃった」


 早乙女さんは東雲さんとは真逆の、今どきのギャルという感じの人だ。実家が『和』な感じだから反抗したのだろうか。

 まあおかげで東雲さんの着物姿を見られたのだから感謝だ。



 しばらく雑談していたのだが、3人とも戻ってくる気配がない。


「遅いな。そんなに混んでるのか?」

「うーん......あっ、友梨からメッセージ来てた。トイレも行列だから西成さんと時間潰しててだって」

「まあこの人数だもんなぁ。無理もないか。じゃぁ何しようか。御神籤おみくじ?屋台?」

「先に御神籤引いちゃおっか!」


 屋台で買い食いすると手が塞がるしその方がいいな。


「御神籤も色んな種類があるんだなぁ。どれにする?」


 受付の人にお金を払ってやるタイプや、恋みくじ、男みくじ、女みくじなんてものまである。男と女で何か違うのだろうか。


「まずは普通のやってみない?」


 東雲さんはそう答えて受付を指す。そこにいるのは白と赤の巫女装束を纏った女性。

 もし東雲さんがあれを着てお祓いなんてしたら、体も心も全て浄化されるんじゃないだろうか。


「......西成さん?」

「あ、ごめん。ああいう巫女装束とかも東雲さんが着たらすごく似合うんだろうなって思って......」


 返事もせずに少し考え込んでしまったようだ。


「巫女装束......。さすがにそれは借りることも出来ないからなぁ」


 まるで借りられたら着てくれるかのような口ぶりだ。ネットとかで買えるのかな。

 いやいや、なんかそういう趣味があるとか誤解されそうだ。さっさと御神籤を引こう。


 受付のお姉さんに2人分の料金を払うと太い筒状の物を手渡される。

 振ると、底に開いた穴から薄い板のようなものが出てくる。そこには『二七』と書かれていた。直接御神籤が出てくるわけじゃないのか。

 見れば受付の横の方には引き出しがたくさん並んでいて、数字が書かれている。なるほど、該当する数字が書かれた引き出しを開けるのか。

 意を決して二七の引き出しを開けると紙が入っていた。手に取って読んでみると、1番上に書かれていたのは『中吉』。内容は悪くは無いといったところか。

 一方の東雲さんは大吉だったようで、内容は教えて貰えなかったが喜んでいた。何が書いてあったんだろう。



 それから3人が戻ってくるまで、屋台を物色した。焼きそばたこ焼きなど定番の物から、ビールや甘酒などの飲み物など所狭しと並んでいる。

 食べやすそうなたこ焼きとベビーカステラを買って、飲み物は東雲さんが甘酒は苦手ということでオレンジジュースを買った。俺もさすがにビールを飲む気分ではないしな。

 端っこで2人で分け合いながら談笑して過ごした。




 ようやく戻ってきた透たちは、いくら混んでいたからといって遅すぎたし、3人の手にはしっかり食べ物飲み物が握られていたので後で問い詰める必要があるだろう。


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