第25話 元旦とおせち
俺の新年1日目は寝坊から始まった。結局東雲さんが帰ったの2時すぎだったしな。
それなのに東雲さんはもう起きているようで、一緒にお節食べませんか?とメッセージが来ていた。
お節まで用意してくれていたのか。去年までは無駄に高い物を取り寄せて結局俺1人がほとんどを食べるという形だったし、今年は無くてもいいやと思っていた。
早速返信して東雲家にお邪魔する。
「おはよう。あらためて、今年もよろしくお願いします」
「おはよう。こちらこそよろしくお願いします」
お互いに頭を下げる。年が明けても変わらず俺と仲良くしてくれるという事実に嬉しくなる。
というか今日は服装こそいつもの俺の服だけど、髪型が少し違うな。
「今日の髪型可愛いね。おでかけ?」
後ろでまとめているのだが、キュッとしているというよりふわっとしている。......自分の語彙力の無さが恨めしい。
「ううん。お節作るのにまとめたのと、あとはちょっと練習してるの」
こんなところでも努力してるのすごいなぁ、と新年早々思った。
テーブルの上に鎮座しているのは、豪華な三段の重箱。
「ちょっと作りすぎちゃったけど、食べて?」
え?てっきり取り寄せたとか買ってきたとか思ってたけど、わざわざ東雲さんが作ってくれたの?お節って人の手で作れるのか……。
なんてバカな思考は中身を見て吹き飛んでしまった。
綺麗に陳列された、色とりどりの食材。大きな海老に伊達巻に紅白蒲鉾、栗きんとん、黒豆。定番の食材がこれでもかと詰め込まれていた。
伊達巻はふわふわだし、蒲鉾は飾り切りしてあってオシャレだし、かずのこは鰹節の風味が効いててプチプチがたまらない。
控えめに言ってどれも美味しすぎて最高だ。
「あの、西成さんは初詣行く予定はある?」
「初詣?同僚から誘われているけどどうしようか迷ってるかなぁ。あんま人混み好きじゃなくて……」
「そっか……。明日、友梨と初詣行くから、もし一緒に行けたらと思ったんだけど。その、2人だと少し怖くて......」
あー、たしかに女の子2人だとナンパとかされるだろうな。いや絶対されるだろ。2人とも系統は違えど美人であることには違いないし。
そうなるとナンパ避けも兼ねて着いて行った方がいいかもしれない。
「それなら、同僚たちも一緒にみんなで行ってもいい?」
去年までは果恋がいて一緒に行けなかった透と紗雪からもしつこく誘われているし、どうせならみんなで行った方がナンパ避けにも効果があるだろう。
「私たちがご一緒してもいいの?」
「うん。せっかくだし、一緒に行けたら嬉しい」
「ぜひ!」
透たちに確認すると二つ返事で了承された。
翌日、早乙女さんと準備があるという東雲さんは一足先に家を出たらしい。
全員駅で待ち合わせしているので、遅れないようにササッと支度して向かう。
やはりというか電車は満員状態だった。初詣だけじゃなく初売りとか目的は様々だろう。
おしくらまんじゅうも嫌だが、なにより人のニオイが気になってしまう。タバコや香水など強いニオイが不快感を刺激する。普段はまだ我慢出来るのだが、年始ということもあってそういう人も多いのだろう。
押しつぶされないように隅のスペースを確保する。これじゃ駅も酷そうだな、と思っているとメッセージが来た。
透と紗雪が先に到着したようだが、駅前は人が多すぎて待ち合わせは無理とのことで少し歩いた先にあるコンビニにいるとのこと。
了解と返信して東雲さんにもメッセージを送る。
そういえば同僚組と東雲組は俺がいないと合流出来ないのかと思い至る。
メッセージを送ってみると、東雲さんたちも満員電車に揺られている最中らしい。俺より少し後に駅に到着するようなので、駅で見張っていれば合流は出来るかもしれない。
よくやく電車がホームに到着し扉が開くや否や脱出する。駅を出て少し離れたところで駅入口を見張る。
女子大生を出待ちしてる。言葉にするとやばいな。ストーカーと言われたらお終いだ。
反対方向からの電車が到着して少しすると、駅から人が一気に吐き出された。
その中から2人を発見しようとするが見当たらない。
やがて散り散りになっていき、それでも見つからないので諦めてコンビニに向かうかと思ったところで背後から声をかけられた。
「西成さん」
振り返ってみると超がつくほどの美人が立っていた。
「……東雲さん?」
「うん!ここで待っていてくれたの?」
「うん、まあ。気付かなくてごめん。まさか着物だとは思わなくて」
俺が2人に気づけなかった理由は、2人が着物を着ていたからだ。それに合わせて髪も結っている。
化粧もしていて、普段の姿を想像して探していたから別人だと思ってしまった。
「こういうの、あまり着る機会がないから、どうせならって友梨が……」
「西成さんあけおめ〜!へへ、どうよ。現役JDの着物姿は」
「あけましておめでとうございます。2人ともとても似合っていて綺麗です。東雲さんはまさに大和撫子って感じだね」
「あ、ありがとう……」
「綺麗だって!良かったね撫子」
東雲さんは青、早乙女さんはピンクを基調とした着物で文句無しに似合っている。綺麗なんて言葉では足りないくらいに。
これを見れただけでもわざわざ人混みを我慢して外に出た甲斐はあるというものだ。
「じゃ、コンビニまで行こうか」
と歩き出そうとすると、何故か俺の両側に陣取る2人。思わず右に左に首を振って見てしまう。
「一応、ボディーガードでもあるんでしょ?よろしくっ」
元気よく腕を組んでくる早乙女さんと、おずおずと袖を掴む東雲さん。
「撫子〜、そんなんじゃはぐれちゃうよ!もっとこうちゃんとしがみつかなきゃ!」
早乙女さんに指摘されて同じように腕を絡ませてくる。
あ、俺今日死ぬのかな。
周囲からの視線も痛いくらいに突き刺ささったまま、俺は連行された。
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