第24話 決意

 


 その後しばらく再戦を続けたがゴリオカートはなんとか俺の勝利を死守した。よく頑張った、俺の理性。

 ゲーム好きだけあって、東雲さんは負けず嫌いだ。だからこそここまで上達したんだろうけど。

 努力を継続できる人というのは本当にすごいと思う。それが結果に結びついているならなおさらだ。


 エンドレスになるのを恐れて、トイレと言って逃げ出した。


 今日は早めに夕食をとってから2人でうちへ来たので、年越しとなるとお腹もすいてしまうだろうとついでに軽くお菓子を持って戻った。

 そして今度は違うソフトを......となったのだが、何故か東雲さんはまたも俺の上に陣取った。


「あの......東雲さん?」

「......だめ?」

「ダメじゃないです!好きなだけどうぞ!」


 この至近距離で見つめながら呟くのはズルい。そんなの何されても許しちゃうに決まってる。

 俺は椅子だ。東雲さん専用機になりきるんだ。

 その体勢のまま、ゴリオとその仲間たちがサイコロを投げつけ合うスゴロク......のようなものをやった。


「そういえばずっとゲームしてるけど、東雲さんは毎年見る番組とかないの?」


 大晦日だと、俺が毎年強制的に見させられていた歌番組や格闘技、お笑い番組など恒例のものがある。


「実家に帰ってる時は両親が見てるのを一緒に見てるけど、あまり興味は無いから......。こうしてゲームしてるほうが楽しいし。あ、西成さんが見たい番組あるならそっち優先していいからね」

「そっか。俺も果恋向こうが見てるのを一緒に見てるフリしてただけだし、ゲームしてる方が楽しくていいな」


 自分の家なのにチャンネル権すらないとは悲しいものである。

 そのうえ、唐突に同意や感想を求められて適当に返したり、果恋が求めていることと違うことを口にすればひたすら文句を言われる羽目になる。

 ここ2年ほどは果恋が番組に夢中になっているタイミングでさりげなく寝落ちしたフリをしていた。どうせ文句を言われるなら会話をしなくていいほうを選んだつもりだった。

 まぁ年越し直前にたたき起こされて文句を言われてしまったのだが。




 ゲームは終盤に差し掛かり、現在のトップは俺。

 毎ターン行われるミニゲームでは東雲さんに負け越しているのだが、偶然起こったギャンブルミニゲームが成功して持ちコインが3倍になったのだった。俺には女神様がついてるからな。

 この調子なら逃げ切れるだろう、と思っている時。ゴーン、ゴーンとゆっくりとした鐘の音が響き渡ってきた。

 時計を見ると23時過ぎ。


「あれ、除夜の鐘って年明けてからじゃないんだ」

「うん。大抵の神社だと、23時くらいから鳴らして年内に107回、年が明けてから1回、合計108回鳴らすらしいよ」

「ほー。東雲さんは物知りだなぁ」


 たしか除夜の鐘は108つの煩悩を取り除くために鳴らすというのは有名な話だ。

 それが本当なら一刻も早く俺の中にある煩悩も消し去ってほしいものだ。切実に。


「もう、今年も終わりだね。西成さんはやり残したこととか無い?」


 そう聞かれて少し考えてみるが、正直、果恋と別れただけでも俺にとっては大きな一歩だったのだ。これでようやく自分の時間を好きに過ごせると思った。

 しかしそれに加えて東雲さんに出会い、一緒に過ごす時間も増えた。

 果恋と違って一緒にいて息苦しくなるようなことも無い。むしろ心地いいとすら思う。


「うーん、特にないかな。強いて言うなら、東雲さんにお世話になりっぱなしでお礼が出来てないことくらいかな」

「......そんなことないよ。助けてもらったのは私のほうだし、料理は私が望んでやってることだから気にしないで。こうして一緒に過ごせてすごく楽しいし。だから......来年もよろしくね?」


 料理だけではない。

 果恋の件ですごく迷惑かけて本来なら嫌われても仕方ないのに。

 東雲さんのほうから距離を詰めてきて、こうして一緒に遊んだり看病してくれたり、励まそうとしてくれたり。

 本当に今の俺があるのは東雲さんのおかげだと思える。


 このまま甘えてばかりでいいものなのか悩みどころではあるが、今はそれよりも一緒に過ごす時間を大切にしようと思う。それが彼女の望みでもあるのだから。

 お礼については来年必ず何かしらの形でしようと密かに決心した。


「こちらこそ。東雲さんは何かやり残したことは?」

「私もやり残したっていうことはないかな。来年はやりたいこととか、頑張りたいことはあるけど......」

「そうだな。俺もやりたいことは色々とあるし。お互いに悔いの残らないように頑張ろう」


「悔いが残らないように、か......。うん。私、頑張るから見ててね」



 もちろん、東雲さんが決めたことならば俺は全力で応援するさ。


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