第23話 大晦日



 去年までは大晦日といえば、年末恒例の歌番組に夢中な果恋に付き合わされて退屈な時間を潰し、年越しそばを作らされていた。

 だが今年は違う。俺の隣には一緒にゲームに興じる東雲さんの姿がある。


 実家には帰らないのかと聞いてみたのだが、先日顔を見せたばかりだし実家にいても特にすることがないとのことで、どうせなら一緒に年越ししたいと言われてしまった。

 俺も気が向いたら顔くらいは見せるしわざわざ混雑に揉まれたくないから居残りだ。

 しかし年越しといっても、男と一夜を共にするということに危機感は抱かないのだろうか。天然なのか、俺が男として見られていないだけなのか。

 まぁ俺が何もしなければいいだけの話だが。友人を傷つけるようなことはしたくないしな。


「ねぇ、ただゲームするのもなんだし、勝負しない?」


 先日のクリスマス以降、完全にというわけではないがお互いに敬語が無くなりつつある。


「勝負?」

「負けた方は勝った方の言うことをひとつ聞くとか」


 なるほど。ちょっとした罰ゲームということか。

 しかし男相手にそういうのはあまりやらない方がいいんじゃ……。と思うが楽しそうな雰囲気に水を差すのも悪い。


「よーし、受けて立とう」


 ま、本気でやったところで俺が勝てるゲームがあるのか怪しいところだが。


 最初は恒例ともなっているスマシスだ。

 得意なキャラを選んで乱闘するが、最強設定のCPUをものともせずに東雲さんはキル数を稼いでいく。

 俺も隙を狙って頑張ってはみるがやはり東雲さんを倒せない以上どうしても差は縮まらない。

 そして当たり前のように東雲さんがトップに君臨した。


「さすが。東雲さんには敵わないなぁ」

「えへへ、やりこんでますから。でも西成さんもかなり上達してるね」

「そりゃ何度も東雲さんと対戦してるし。それで、勝者の権限はどうする?」

「あ......えっと、じゃあまた膝枕......してほしいかな」

「それくらい全然いいけど……」


 あの時と同じ体勢で膝枕をする。髪を梳くように撫でてみるが嫌がる様子はない。


「東雲さんって兄弟はいる?」

「ううん、私は一人っ子だよ。西成さんは?」

「俺も同じく」


 ふと気になって尋ねてみたが、兄弟もおらず親とも離れて友達も少ない。だから甘えられる相手というのがいないのかもしれない。

 だからこうして仲良くなった俺に甘えてくるのかな。


 しばらく膝枕してからゲームを再開する。

 テニスでも負け、ゴルフでも負け……、もはや苦笑するしかない状況で次に選ばれたソフトはゴリオカート。

 赤い帽子を被ったゴリラとその仲間やライバルたちがカートに乗ってドッカンバトルするアレである。どんな激しいバトルを繰り広げても壊れないカートってすごいよな。


 そういやこれは今まで一緒にやってなかったな。

 しかし東雲さんがこのソフトを避けていた理由はすぐに分かった。

 コントローラーのスティックでハンドルをきる度に体が右に左に傾くのだ。

 最初は首だけが傾いていたのだが、大きなカーブで曲がる時間が大きいとその分体まで釣られて傾くようだ。これは意外な弱点を見つけたな。

 当然、そんな状態で上手く走り切れるわけもなく。俺が圧勝してしまった。


「負けた……悔しい……」

「まぁ他は全部東雲さんが勝ってるし……。体が傾くのを直せれば上手く走れると思うんだけど」

「昔からこれ直らなくて……。だから免許取りに行くのも少し怖くて……」


 なるほど。そういうことだったのか。お金以外にもそんな理由があったとは……。

 たしかに視界がブレてしまうと事故る可用性も高くなるしなぁ。


「そうだな......意識するだけじゃ熱中したら意味無いだろうし、何かで体を固定してみるとか……」

「固定……」

「クッションとかじゃ柔らかすぎるし他に何か……」


 なにか無いかとキョロキョロしてると、俺をジーッと見ていた東雲さんが手を挙げた。


「さっき保留にした権利を行使します」

「あ、うん。何するの?」

「そのまま座ってて……ちょっと失礼します」


 東雲さんは俺の膝の上に座った。え?


「ちょ、東雲さん?」

「西成さん、両腕貸してください」


 そして俺の手を掴んで自らの前に持っていく。


 つまり、今俺は座った状態で東雲さんを後ろから抱き抱えている。

 近い。柔らかい。いい匂い。


「西成さんが抑えてくれれば私の体は動かないからこれで大丈夫」

「あ、うん」


 言いたいことは分かる。分かるけども。

 直したいのはいいがこれはアウトなのでは?今セクハラって言われたら俺死ぬよ?社会的に。

 ていうか東雲さん腰細くない?無駄な脂肪は全部その豊かなお胸様にいってるの?


 そんな俺の思考をよそに、東雲さんはゲームを再開させる。

 俺も慌ててコントローラーを持ち直して準備する。


 ゲームが始まり、カーブで東雲さんの体が動こうとするのを両腕でしっかりホールドして防ぐ。というより、東雲さんが動くと俺と触れている部分が擦れるわけで。



 男の部分が反応してしまわないように、必死で東雲さんを押さえつけてゲームに集中するしかないのだった。


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