第22話 クリスマス



 12月24日。クリスマスイヴ。

 世間では聖なる夜とか性なる夜とか言われているが知らん。

 キリスト教?俺は東雲教徒です。



 東雲家では、女神様が腕によりをかけて料理を作っている。

 いつものように俺の服を着て、その上からエプロンを着ている。なんだろう。この背徳感にも似た何とも言えない感情は。

 ありがたや......。つい拝んでしまった。


 チキンやらピザやら買ってこようかと昨夜のうちに聞いてみたのだが、作りますと一蹴されてしまった。

 せっかくのクリスマスだしこういう時くらい休めばいいとも思うのだが頑なに譲らなかった。


 透たちにも一応誘われはしたのだが、金曜の夜だしクリスマスイヴだしどこ行っても混んでるだろと断って直帰した。女神様の手料理に勝るものなんてないだろ。

 手伝おうと早めの時間にお邪魔したのだが、本当にお邪魔にしかなってない気がする。

 東雲さんの手際が良すぎるのだ。動画とか撮ったら怒られるかな。

 俺は指示されるがままにお皿の準備をして、そこに盛り付けられていく料理。

 ローストチキンにピザにグラタンにとオーブンさんが大活躍だ。

 なんでこんな立派なオーブンがあるのかは気にしないでおこう。

 俺の部屋と同じ間取りだよね?東雲家のキッチンが完全に異空間なんだが。

 まだ見ぬ女子力がこの部屋にあふれているというのか......。



 テーブルの上には色とりどりの料理が並んでいる。

 こういう時って肉とか脂っこいものばかりになりがちだけど、ちゃんとサラダとかも用意してある所も東雲さんのいいところだ。

 先週買ってきたペアグラスに飲み物を注いで掲げる。


「それじゃ......メリークリスマス」

「メリークリスマス」



 東雲さんの料理は今日も絶品だった。脂っこすぎずとても食べやすい。

 休めばいいのにとか言いつつ買って来なくて良かったと思ってしまう。




「西成さん。あの、これ......」


 東雲さんがおずおずとラッピングされた袋を差し出してくる。


「これは......?」

「......クリスマスプレゼント、です」

「え、料理まで用意してくれたのにさすがにもらえないですよ」

「私が好きでやってるだけだなので気にしないでください!私の我が儘ですから......」

「......そう言うのはずるいですよ。開けても?」


 東雲さんはコクリと小さく頷く。

 慎重にラッピングを解くと、中に入っていたのはマフラーだった。


「その、西成さんいつも朝寒そうにしているので、あったら喜んでくれるかなって思って......。作るの初めてだったので変なところがあったらごめんなさい」

「たしかにずっと欲しかったけどわざわざ買うほどではないと思って......って、これ東雲さんが編んだんですか!?」


 え、まじで?買ってきたんじゃなくて?


「はい。毎日ちょっとずつ編んでて......間に合って良かったです」


 そんな素振り全く見せなかったじゃん。

 いや嬉しいよ?このままのたうち回りたいくらいに嬉しい。

 でも同時に、申し訳なさも感じてしまうのも事実だ。


 東雲さんへのプレゼントはペアグラスで俺も使うものだしこれでは釣り合わない。

 それに、出会ってから東雲さんには貰ってばかりで全然お返しが出来ていない。これでは女子大生に貢がれてるオッサンじゃないか。


「ありがとう、ございます。絶対、大事にします。......それと、東雲さん。欲しいものとかしてほしいことがあったら何でも言ってください。俺に出来ることならなんでもやりますから」

「そ、そんな......今でも十分すぎるくらいですよ!」

「貰ってばかりで俺が嫌なんです。俺が言っても東雲さんには迷惑かもしれないけど、もっとこう......我が儘というか、欲を言ってもいいんじゃないかなって思います」


 ご飯を食べに来るのを止めればこうしてもらうばかりの関係も終わるのかもしれない。

 でも、そうじゃなくてせっかく出来た友人とは対等に接したかった。貸し借りとか恩とか気にせずに接したかった。

 このままでは俺がそうだったように、東雲さんが疲れて見捨てられてしまうのではないか。そう思ってしまう自分がいた。


「............じゃあ、敬語、やめてほしいです」

「え、そんなことですか?」

「まだ距離があるようで少し嫌なんです......」

「まあ癖になってるのもあるんでちょっとずつなら......。というかそれいうなら東雲さんもですよ」

「え、私ですか?」

「だって東雲さんだけ敬語っていうのもおかしいじゃないですか。俺たちは先輩後輩でも上司部下でもない、その......友達、なんですから......」

「......そう、ですね。じゃあ、私もなくせるように頑張ります」




 結局お互いに敬語なくすって、これお互い様だからお返しにならなくね?と思ったのは自分の部屋に戻ってからだった。


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