第21話 プレゼント



 早いもので今年も残り2週間だ。そんななか俺は頭を抱えていた。

 その内容は、東雲さんへのクリスマスプレゼントである。

 日ごろからお世話になりっぱなしだから何かお返しも兼ねてプレゼントしたいところだが、何を送ればいいのか分からない。

 果恋の時はあれこれと指定されて買わされたから悩む必要も無かったが、今年は違う。


 ネットで調べてみるもあまりピンとこない。

 付き合っているわけでもないからアクセサリーなどは重いしもらう側も困るだろう。

 化粧品類はお気に入りのブランドもあるだろうしそもそも東雲さんはあまり化粧をしないほうだ。

 料理をするからそれ関係......といっても足りてないものがあるのかすら俺にはさっぱりだ。

 あとは食べ物などの消え物くらいか。しかし東雲さんの料理に勝る食べ物となるとそれも難しい。


 こうなったら直接聞くしかないな。下手なものを渡して微妙な顔をされるよりは欲しいものを買った方が喜ばれるだろう。


「東雲さん、何か欲しいものはありますか?」

「欲しいもの、ですか......?」

「その、もうすぐクリスマスなので何かプレゼントをと思ってるんですが、何が欲しいのか分からなくて......」

「クリスマス......プレゼント、いただけるんですか?」

「もちろんです。日ごろからご飯とかお世話になりっぱなしなので」

「私が好きでやってるだけなので気にしないでください。それに......、西成さんからなら、何をもらってもうれしい、ですし......」


 やめて!それは反則だから!その微笑みで浄化されちゃう!


「そういうわけにもいきません。色々調べてはみたんですがピンとくるものが無くて......。なんでもいいので言っていただけると助かります」


 果恋に貢ぐことも無く、食費も大幅に削減出来ているので余裕はある。


「なんでも……。あ、あの……じゃあ、今週末って空いてますか?」

「ええ、特に予定はありませんが」

「それなら、お買い物、付き合って欲しいです」

「それくらいお易い御用です」


 そこで何か買うってことだろうか。





 そして迎えた週末、土曜日。

 10時ピッタリに訪ねてきた東雲さんと目的地へ向かう。

 まだ早い時間帯ということもあって混み具合はそこそこだった。

 それでもカップルらしき男女や家族連れが多いのは、皆クリスマスプレゼントを買いに来た人達だろうか。クリスマスまであと一週間だし十分に有り得る。


「前も思いましたけど、西成さんって運転すごくお上手なんですね。安心出来ます」

「万が一にも事故る訳にはいきませんからね」


 1人ならともかく、隣に誰か——それも東雲さんを乗せてる時に事故って時間を取らせた上に怪我でもさせたら大変だ。

 女神だから俺が怪我してもすごく心配してくれるんだろうけど、それも申し訳ない。



 向かったのは矢印良品という雑貨屋さんだ。

 小物入れや家具から服や簡単な食材、さらにはちょっとした家電まである。生活に必要な物はほとんどここで揃うと言ってもいい程の品揃え。

 そういえば東雲さんの部屋はシンプルで落ち着いた物が多かったけど、矢印ユーザーなのかな。

 入口にあるのは家具コーナー。ソファやカーペット、テーブルなどが展示されていて、実際の生活空間のようになっている。


「私これずっと気にはなってるんですけど、買う勇気はないんですよね……」


 そう言って東雲さんが指したのは『ダラ堕落ッション』。CMでも紹介されている、モチモチのクッションだ。

 その弾力が絶妙すぎて、人を堕落させるクッションとも言われている。商品名もダラダラと堕落とクッションが合わさっており、さすがのネーミングセンスである。


「俺も欲しいと思ったことあるんですけど、帰ってこれに体委ねたらもう起き上がれない気がして諦めましたね」


 しかし東雲さんにお世話になりっぱなしの現状も十分に堕落してるといえなくもない。

 というか東雲さんは天然なとこはあるけれど生活スキルは高いし堕落するイメージが全く湧かないんだが。見てみたい気もするがそれで俺の晩飯が失われるのは怖い。


 それから店内をゆっくりと見て回った。

 胸元に矢印かと思ったら♂のマークがあって背中には押忍と書かれているTシャツ。もはや矢印ですらない。需要あるのか?

 矢印まみれの収納ボックス。目が悪くなりそうだ。


 最後にキッチンコーナーへ向かった。調理器具を見る東雲さんの目は真剣だ。

 そしてある商品の前で足が止まった。


「西成さん、私これがいいです」


 俺に差し出した箱を手に取ってみると、『ダブルウォールグラス・ペア』と書かれている。名前の通りガラスが二重になっていて断熱効果があるらしい。

 それに、ステンレス製のタンブラーだと炭酸とかが適していないけれど、これならガラスだからチューハイなどでも問題ない。普通に自分のが欲しい。

 それが色違いで2つ入っている。


「その、西成さん用のコップとかも無いし丁度いいかなって……」

「それはたしかにそうですが、これだと東雲さんへのプレゼントにはならないんじゃ……」

「そうでもないですよ。私も使いますし、その……誰かとお揃いってちょっと憧れなんです。……ダメ、ですか?」

「ダメじゃないです!」


 即答です。その上目遣いは反則だってぇ!!!


 言いたいことは分かる。普段使う小物とかちょっとした物がお揃いっていいよね。うん。

 でもその相手が俺なの?大丈夫?そういうのって彼氏がいないとしても、早乙女さんとかのがよくない?



 こういうとこはなんというか……天然なんだよなぁ。これもギャップというのだろうか。


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