メンヘラ疫病神を捨てたらお隣の女子大生女神を拾った。

第19話 タルタルとモヤモヤ

　今日も今日とて東雲家で夕飯をご馳走になる。毎日このご飯のために頑張っていると言っても過言ではない。

　今日のおかずはからあげだ。もう匂いからして美味しい。

「いただきます」

　食材と東雲さんに感謝していただくとしよう。

　まずは定番のお味噌汁。もはや実家並みの安心感すらある。

　さて、とメインのからあげに取り掛かろうとするが、ふとそれに添えるように盛り付けられているものが目に入った。

　なにかのサラダかな？と思って少し口に入れてみる。

「............タルタルソース？」

「あ、はい。味変にどうかなって作ってみたんですが......」

「えっ、タルタルって作れるんですか？」

　ビックリして変な感想が口を出てしまう。

　そもそもタルタルソースなんて口にする機会があまりないが売っているところを見たこともない。

　たしかに見ればこのタルタルソースはゆで卵と分かるくらいには形が残っていたりするのだが……。

「作るの自体はそんなに難しくは無いんですよ？食感とか味は人それぞれの好みがあるのでその調整くらいですね」

「へぇ。タルタルなんてエビフライくらいしか想像つかないですね。あ、でもチキン南蛮とかもあるか」

　それならからあげもありなのか。

「試してみると色んな食べ物に合うんですよ」

「そうなんですね。つかこれめっちゃ美味いですね。もうこれ単体でもいいくらいです」

　からあげと一緒に食べても美味しいんだろうが、ポテトサラダのような感覚でタルタルのみでもどんどん食べれる。もはやソースと言えるか疑問だ。

　おかず……いや、これはいいつまみにもなる。

「ふふ、お口に合って良かったです。これ、私昔から好きで祖母に教えてもらったんです」

「なるほど。それはお祖母（ばあ）様にも感謝しないと。これは色んなものに合わせたくなるのも納得ですね」

　東雲さんの料理の腕はお祖母さんから受け継がれたのか。和食が得意というのもうなずける。

　外食となると基本的に洋食になるし、総菜を買う時も和食というのはほとんどなかった気がする。

　それなのに今では和食が1番と言っていいほどに好きになっている。まぁ東雲さんが作るもの限定だけど。

「気に入ってもらえたならまた作りますね」

「是非。もう今から楽しみです。いや、東雲さんの料理どれも美味しくて毎日楽しみなんですけど」

「そう言って貰えて嬉しいです。西成さん本当に美味しそうに食べてくれるので作りがいもあります」

「いやもうホントにただ美味しいっていうか、味付けが俺の好みドンピシャなんですよね。今まで外食とか惣菜や冷食買ってきてってのばかりだったんですけど、もうそんな生活には戻れそうにないです」

　味付けは決して濃くなく、素材の味や食感を最大限に引き出しているというか。

　このからあげだって、すでに醤油の下味がついていて美味しく食べられる。

　試しにタルタルソースをつけて食べてみると、これまた違った味になって面白い。

　誰かさんは調味料だらけで、寿司とか食べに行っても醤油をこれでもかってくらいつけて食べる。

　もうそれ何食べても変わらんやろって思ってしまったものだ。健康にも悪いし。

　俺は薄味派なので東雲さんの味付けは本当に好みなのだ。

　今日みたいに味変用のソースとかは添えたり小皿で出して自分好みに調整できるように気遣いもしてくれているし。

　もう胃袋を掴まれているどころの話ではない気もする。

　朝こそ支度とかあるから自分で用意しているが、昼はお弁当作ってもらって夜は毎日ご馳走になっている。今では土日の昼もご馳走になる日が多い。

　ご飯が美味しいだけで毎日がこんなに幸せになるなんて思いもしなかった。

　まぁ東雲さん以外が作った物を食べてここまで満足できるのかは疑問だが。

　毎日こんなに美味しいものを食べさせてもらっていて幸せなのだが、どこかで怖いと感じている自分もいる。

　この関係がいつまで続くのだろうということだ。

　もし東雲さんに彼氏が出来たら？いや、彼氏でなくとも好きな人が出来た時点でこの関係も終わりになるだろう。今でこそいないらしいが、本来なら好きな人にこそ振る舞いたいはずだ。

　それに、東雲さんは大学生。

　卒業したら、というのはもちろんだが、その前に勉強やゼミなどで忙しくなるかもしれない。就活だってあるだろう。

　そうなればわざわざご飯を作ってもらうことなど出来ない。

　今からでも東雲さんと別々に食べる日を作った方がいいのかと葛藤がある。

　俺がやっていることと言えばお金を払っているだけだし。

　今までがアレコレと指定されたものを貢がされていたので、察するというのは苦手というか慣れていないのだ。

　お礼をお礼をと考えてばかりで全然実行に移せていなくて自分が情けない。

　でも本人を前にそれを態度に出してしまえば優しい東雲さんは心配する。それだけはやってはいけない。

　そういうのは帰って1人になった時にたくさん考えればいい。

　今は目の前の美味しいご飯に集中しなければ。東雲さんにも食材にも失礼だしな。