第18話 こたつ



 11月も末に差し掛かり、さすがに肌寒さを感じるようになってきた。


「わぁ!炬燵あるんですね!」


 週末、遊びに来た東雲さんが感激の声を漏らす。


「エアコンよりこっちのが好きなんですよね。まぁ、寝落ちしちゃう危険があるのが難点ですが……」

「むぅ。それはたしかに危険ですね。炬燵で寝ちゃったらもう起きれなさそうです……」

「たしかに寝るまでは気持ちいいんですけどね。潜って寝てたらいつの間にか汗だくで……ってこともありますから」

「うっ……そんな罠もあるんですね……」

「まぁ今日は炬燵でゲームしましょうか」

「是非!」


 安定のスマシスに始まり、テニスやゴルフ、パズルなどで勝負したりタッグを組んでCPUをフルボッコにした。

 東雲さんがいればCPUの『さいきょう』設定でも対して相手にならない。

 東雲さんはCPUに完勝し、俺はCPUに勝つこともあるが負けの方が多い。だが俺はトリッキーな動きを交えることで東雲さんには勝つこともある。といった奇妙なトライアングルな関係だ。



「はぁ……やっぱり炬燵っていいですねぇ……」


 炬燵の影響か、今日の東雲さんのゲームの強さはいつもよりマイルドだ。

 表情も柔らかい気もするし炬燵って偉大だなぁ。


「ウチに来ればいつでも入れますから」

「うぅ……。そんな誘惑は……」


 東雲さんが緩んでる姿は貴重だしな。これでリラックスしてもらえるならいくらでも炬燵を貸し出す。

 どのみち、平日の夜は東雲家で、週末は俺の家で過ごしているし誘惑も何も無いだろうに。


「でも、ゲーム熱中するとちょっと暑いくらいですね」

「ふふふ……そんな時はアイスです」

「えっ。この時期にアイス食べるんですか?」

「アイスはいつ食べてもいいんですよ。それに、夏に食べるのとはまた違った美味しさもありますからね」


 単純に今の時期限定の味も売っているが、炬燵で暖まりながらアイスでクールダウンという背徳感がまたいいのだ。東雲さんもこちら側へ引きずり込んでしまおう。


「さ、どれがいいですか?」


 冷凍庫の前に立った俺たちの目には色々なアイスが見える。

 料理をしなくなったので、冷凍庫の中身は非常食の冷食が少しとあとはアイスで埋め尽くされている。


「うわぁ……たくさんあるんですね」

「どれでも食べてください」

「迷いますね……大福も美味しそうだけどこっちの抹茶味も気になります……」

「じゃぁその2つにしましょうか。半分こすればどっちも食べれますよ」

「え、いいんですか?」

「もちろんです。色んなの楽しんで欲しいですし」

「ありがとうございます」


 再び炬燵に戻ってアイスを半分こする俺たち。

 冬の定番とも言える大福と抹茶味のモナカだ。やっぱり名前の通り和風なものが好きなのかな。


「ん〜〜!美味しいです!炬燵でアイス、病みつきになっちゃいそうですね」


 その言葉に俺はうんうんと頷く。

 だからといって一度に食べ過ぎれば当然お腹を壊してしまうのだけど。寒いのでトイレとお友達というのは遠慮はしたい。


「ごちそうさまでした」


 2人で2つのアイスを食べ終えて一息つく。




「ふわぁ……なんだか眠くなってきました……」


 アイスのゴミを片付けて、ゲーム再開かなと戻ると東雲さんがウトウトしかけていた。


「少しお昼寝しますか?」

「でも……ここだとお邪魔に…………ゲーム……」


 すでに半分夢の世界に足を踏み入れているようだ。寝るまでが早いな。

 しかしこのまま寝かせてしまっていいのだろうかという迷いもある。

 友達とはいえ、相手は異性だ。そんな子を自分の家で寝かせるのはいかがなものなのか。

 出会った初日は事情が事情なので考えないことにする。


 最近は東雲さんがどんどん無防備になってきている気がして困る。

 それだけ信頼されているのか、お得意の天然なのかは分からないが。


 あの時と同じようにベッドまで運ぶか迷ったがやめておいた。それで熟睡されても困るのだ。

 とはいえこのまま寝かせては体を痛める。俺自身よく肩甲骨のあたりを痛めて起きた瞬間に悶絶したものだ。

 ということで東雲さんの上半身を少し持ち上げて隙間にクッションを滑り込ませる。

 すると気に入ったのか器用に寝返りを打って、クッションに抱きついてお昼寝を継続した。


 本人の許可なく寝顔を眺めるのは良くないと思いつつも、ついその綺麗な寝顔に見入ってしまう。

 寝返りを打ったせいか、口に髪の毛が入ってしまっているのを、苦笑しながら取ってあげる。


 少し触れただけでも分かるくらい髪の毛はサラサラだし、美人は寝てても美人なんだな......なんてしょうもないことを思う。




 俺は雑念を払うために、音を消して1人ゲームを再開するのであった。


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