第17話 映画デート
今日は東雲さんとお出かけだ。
といっても付き人としてお供するだけだ。デートではない。
きっと早乙女さんの都合がつかなかったとかそういう理由だろう。しっかり役目を果たさなければ。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
「おはようございます。......いつもの落ち着いた感じもいいですけど、オシャレな服装も似合ってますね。綺麗です」
今日の東雲さんはお出かけだからか気合が入っているように見える。
いつもはシンプルで落ち着いた雰囲気だが、今日は化粧もして少し明るめの服装だ。
髪もサイドの一部だけ編み込まれていてオシャレである。
もともとが美人なだけに、今日はさらに際立っている。隣を歩くのが地味な俺でいいのだろうかと心配になってしまう。
向かったのは車で30分ほどの場所にある大型商業施設だ。今日の目的は映画を見ることらしい。
先週公開されたばかりのスタジオ
後輩の紗雪は公開初日に観たらしくて絶賛していた。自慢やらネタバレの気配が鬱陶しかったので透に押し付けておいた。
俺もRe:ジーブの作品は好きだが、果恋がいたから学生の頃に公開されていた作品までしか見れていない。
一緒に観ようと提案したことがあったが、ガキっぽいから無理と一蹴されてしまった。
「東雲さんはポップコーンとか何か食べる派ですか?」
「いえ、私は集中して観たいので大丈夫です」
「じゃ、飲み物だけ買いましょうか。何にしますか?」
俺も映画を見る時は何も食べない派だ。正直言うと、周りの人が食べるのも音やにおいが気になってしまうくらいだ。
チケットと飲み物を手に入場して席を探す。話題の作品だけあってけっこうな入場者数のようだ。
後ろの方の席が確保できたのは幸運ともいえるだろう。
段差状になっていて後ろの席ほど位置が高くなっているので、あまり前の席だとスクリーンを見るのに見上げなければならず首が痛くなりそうだ。
席に着いてスクリーンを見ると、他の映画の予告が映し出されていた。
お、あのシリーズの新作やるのか。見たいけどその前に今までのやつを見てからじゃないと。むしろ最初から全部見直したいな。
やがて場内の照明が暗くなっていき、本編が始まる。
ストーリーは、ある日空から見知らぬ女の子が落ちてきて助ける。調べていくうちにその子は数年前に行方不明になっていたらしいことが判明する。
その間どこにいたのかというと、なんと空に浮かぶ巨大な城だという。そこでは多種多様な不思議な生き物が住んでいてそのお世話をしていたとのこと。
城は雲の中にあって常に移動しており、場所を特定されることはないはずなのだがついに謎の組織に発見されてしまって少女が人質として捕まってしまう。
何とか逃げ出したものの、飛行船から落ちてしまってそれを主人公が見つけたというわけだ。無事だったのは不思議生物に渡された石のおかげだとかなんとか。
そして主人公と少女は城に乗り込んで組織と戦って不思議生物たちを助けるというものだった。
まぁまぁ面白い内容ではあった。
映画館を後にした俺たちは施設内にあるカフェに入って映画について話すことになった。
「東雲さん的には映画どうでした?」
「面白かったです。ただ、Re:ジーブの作品を観たのは久々ですが、昔の作品のほうが好きでしたね」
「あ、それは俺も思いました。Re:ジーブっていうと人間と自然をテーマにした作品っていうイメージだったので......。まぁ最近の作品全然見てないんですけどね」
「ですよね!西成さんが1番好きな作品って何ですか?」
「1番っていうと、やっぱり怪物姫ですね」
神を殺してでも森を切り開こうとする人間の欲望と、それに対立する獣。そして自然の摂理が描かれた作品である。
「それ!私も大好きです!自然との共存って、今生きている私に向けたメッセージでもあるんですよね」
東雲さんは優しいから合わせてくれただけかと思ったがそういうわけでもないようだ。
「たしかに。俺たちが今いるこの場所も元は森だったのかもしれないし、当たり前のように使っている紙なんかも木から作られてますしね。そう考えると人間って業が深いですね」
「そうなんですよね。生活が便利になるのはうれしいけど自然を壊してるって考えると少しもやもやします」
子供の頃はただなんとなく見て、人と獣が争っているくらいにしか思わなかったけど、成長してから見直すとそういった面も見えてくるんだよなぁ。
「......好きなものが一緒って嬉しいですね」
本当にうれしそうな顔が可愛い。
友達と好きなものが同じで語り合えるっていうことがこんなに楽しいとは思わなかった。
「そうですね。話してると久しぶりに観たくなってくるなぁ」
「あ、じゃあ帰ったら一緒に観ませんか?私も久しぶりに観たいですし」
「いいですね」
なら帰りにDVDを......いや、たしか動画配信サービスがあったはず。
果恋が使っていただけで料金を払っていた俺はまだ触ったことすらない。あれなら色々あるはず。
見終わったらまた語り合えるというのも今から楽しみだ。
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