第13話 天然炸裂!



 いつものように東雲家でいただく夕食の時間。

 適当にテレビを見ながら食べて20時前になるとニュースの時間になる。

 どうやら最近空き巣が多発しているらしい。

 この辺も明かりが少なくて遅い時間になると人通りも少ない。いつそういった被害に遭うか分からないだろう。


「怖いですね......。いない間に盗まれるのも嫌ですけど、鉢合わせしちゃったらどうしようもないですよね」

「たしかに。怖い世の中ですね」


 対策としては、日頃から戸締りはしっかりしておくこと。

 外出していることを悟られないようにすること。

 防犯カメラを設置すること。

 男性物の服を干しておく。

 などといったことが紹介されていた。


「男性の服......」

「まあ女性の一人暮らしは狙われやすいでしょうしカモフラージュは有効ですね。防犯カメラはお金かかりそうですし......」


 そう返すがなにやらこちらをチラチラ見ている。これはそういうことだよなぁ。


「あー、あまり着ていないものでよければお貸ししましょうか?」

「い、いいんですか?」


 そんなあからさまに見られたらノーなんて言えないでしょうよ。どうせベランダに干しておくだけだし構わないだろう。

 夕食後、片づけを手伝ってから一度自宅に戻って服を取ってくる。同じ服を毎日干してると逆に怪しいので何種類か選んで戻る。





 翌日、同じように19:30にメッセージが届いて隣を訪れた。

 そこまでは昨日と同じだった。


 しかし明らかに違う箇所が1点。

 東雲さんの服装だ。いや、毎日違う服を着ているのはおかしいことではない。


 おかしいのは東雲さんが、ことだ。


「おかえりなさい。お仕事お疲れ様です」

「......ただいま。その服......」

「あ!これは、その......干すなら洗わないとだし、洗うなら1度着ないと勿体ないかなって......。着替えるつもりだったんですけど、すみません!」

「いえ、謝ることはないんですけど......」


 別に洗わずに干すという手もあるんだけど。やはりこういうところは天然なのかな。

 東雲さんには大きいので萌え袖と呼ばれるように手は隠れていて、襟元からはインナーが見え隠れしている。これは目に毒だ。ありがとうございます。

  彼シャツという言葉は聞いたことがあるが、実際に自分の服を女性が着ているのを見るとなんだか少し恥ずかしいな。




 そしてなんとその翌日も東雲さんは俺の服を着ていた。

 あれ?昨日たしか、俺が来る前に着替えるつもりだった的なこと言ってなかったっけ?

 一度見られたからもう堂々と着てやるってこと?


 ——俺はもう考えないことにした。思考放棄である。

 俺ももう着ないような服だし、別に東雲さんが着たからって何かあるわけじゃない。好きにさせておこうということだ。

 何故か東雲さんはニコニコとしていて機嫌がいいみたいだし。





 そのまた翌日は帰宅時間が被りそうということで同じ電車で帰ることになった。


「えーと、前から3両目の車両、前のドア......と」


 東雲さんから送られてきた情報を元に電車に乗り込むと、すぐに見つけることが出来た。


「おかえりなさい。お仕事お疲れ様です」


 東雲さんが小声で労ってくれる。まだ電車なのにおかえりなのかと笑いそうになる。


「ただいま。東雲さんもおかえりなさい」


 少し込み合っている電車の中で、東雲さんをかばうような位置取りで立つ。

 俺はこの混雑具合には慣れているけど、女性が一人で乗るにはたしかに怖いな。

 この路線じゃ女性専用車両も無いし。


 ようやく最寄り駅に到着して下車する。すると改札が目の前にあった。

 なるほど、これを見越してあの場所に乗っていたのか。さすがだ。

 俺は会社の最寄り駅で空いてそうな所に乗るだけだからな。到着した時のことまでは考えていない。


「西成さん、またお買い物付き合ってもらってもいいですか?」


 駅を出ると東雲さんがそう聞いてきた。


「もちろんです。俺でよければいつでもお供しますよ」


 毎日ご飯を作ってもらっているんだ。お望みとあらばどこへなりとお供しようじゃないか。ちょうど俺も買いたい物あるしな。

 前回と同じように車でスーパーへ向かって買い物をする。


「西成さん、それお酒ですか?」

「ええ。年末に会社の人たちと飲み会があるので少し体を慣らしておこうと思いまして」

「そうなんですね。お酒って美味しいんですか?」

「まぁ好みはありますけど、アルコール弱いお酒も色んな味もあるし美味しいですよ。あ、これは自分の家で飲むので安心してください」


 さすがにまだ飲めない東雲さんの前で俺だけ飲むわけにもいかない。それに女性の家で酔いたくないというのもある。


「え?別に私は構いませんよ?晩ご飯の時にでも飲んでください。良ければご飯少なめにしておつまみでも作りましょうか?」


 なんだって......。つまみまで作るなんて理解ありすぎじゃない?


「いやでもさすがにそれは......酔ったら迷惑かけちゃいますし」

「いいじゃないですかそれくらい。私なんて落ち込んだところも寝顔も見られてるのにずるいじゃないですか」


 いやそれは不可抗力じゃない?しかし事実でもあるので反論しずらい。

 それに、先日ゲームをしにウチに来て以来、東雲さんの遠慮が少しなくなった気もする。

 それが友達として認められてみたいで嬉しく思う自分もいる。


「分かった、分かりました。喜んで飲ませていただきます」

「ふふ、じゃぁ西成さんの好きなおつまみ教えてください。美味しいの作って見せますので」


 それは大変魅力的な提案だ。降参するしかあるまい。




 せいぜい酔って醜態をさらさないように気を付けようと誓うのであった。


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