第6話


「御者さん。馬車を止めて。」


「え? どうして・・・」


「今すぐ。」


「は、はい・・・」


「ボー? 何してるの?」


「ありがとう。シー。・・・さようなら。」


 そう告げたボーは、馬車の外に飛び出した。

 ・・・この声は、詠唱?


《この命を持って、かの命を葬り給え。【revenge】》


 途端、鳴り響くのは黒い音。

 命を引き裂く、告別の音だ。


『愚かだ。我に刃向かおうなど。』


 あたまに、声が響く。

 ボーは、今何をした?


 大地が揺れる。


 空気がしびれる。


 これは、何だ?


 この、高ぶる感情は?


「ああははっはははは!」


 殺れ!殺戮の限りに!

 雪辱を! 屈辱を!


 全てをぶつけろ。


『な、なんだ貴様! 我は魔王の右腕で・・・』


《告げろ。終演の鐘。【The end】》


 俺は、無心で詠唱していた。

 大きな鐘が、あたりを揺らし始める。


 周りの雲が散り、太陽が散り始める。

 何も考えたくない。



 ・・・ボーは生きているだろうか。



 ╋╋╋╋╋



「本当にいいのか? シー。」


「大丈夫だ、ヤミ。」


 最後の街。ここから先は険しい道のりとなる。


 ・・・記憶を失ったボーを、置いていくわけにはいかない。


 彼女は、もういない。

 彼女が失ったのは、記憶だけではない。


 彼女は、【魂】を犠牲にして魔法を放った。


 彼女の魔法は、【リベンジ】という魔法だ。何かが犠牲になった時に、その効果を発揮する。

 彼女は、自らの魂を傷つけ、魔法を行使した。


 彼女の記憶が、魂が、彼女に戻ることはない。


 だから。


 ここからは、二人旅になるだろう。


「本当に大丈夫か? ボー。」


「ああ。こんなことは、もうなれている。」


「・・・そうか。」


 小さく、小さく、ヤミはうなずいてくれた。


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