第5話



「魔王城にしゅっぱーつ!」


 ボーはそう乗合馬車の中で叫ぶ。


「ちょっとボー。ここは乗合馬車だから。静かにして。」


「ちぇ。面倒くさいの。ねえ、オッチン?」


 なんでそこでヤミが出てくるんだ?


「ちょっと、オッチン。起きなきゃ駄目だよ?」


「ん? あ、あぁ、ごめん。寝てた。」


 ヤミは珍しく寝ていた。こういうとき、ヤミは静かに座って本でも読んでいるのだけど。


 旅の疲れが溜まっているのかもしれない。


「楽しみだねえ。」


「そうやって楽しめるのはボーだけでしょ。」


「そうですよ。こっちはいつやられるかハラハラしてるんですから。」


「あはは。」


 いつもの陽気なボーが帰ってきた。

 この日常が、いつまでも続くといいな。


 ・・・もちろん。いつまでもとはいかないだろうけど。



 ╋╋╋╋╋



 まだ、気づかないんだね。シー。

 私は、一人心の中でつぶやく。


 シー、あなたは知らないのかもしれない。でもね。


 この旅は、最初から決まっていたんだ。


 ・・・あなたが、ここで死ぬことが。



 今。思い返すと、懐かしいよね。


 みんなで死闘を繰り広げた洞窟も、あの子がいなくなった滝も、 不意打ちされた集落も。


 ・・・もちろん、あの火山も。



 だから、きっと。


 あなたはこれからも生きるべきだよ。

 私は、運命を知っている。


 だからこそ。あなたは今死ぬべきじゃない。・・・馬車に乗る人たちも。


 これは、私のわがまま。

 でも、叶えるよ。


 ・・・これで私は、世界一のわがままさんだね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る