第4話

神は人に試練を課しました。

北の大地に悪魔に放ったのです。


人と悪魔が交わった時、争いが起こりました。

悪魔の猛攻で人は滅亡の危機に瀕しました。

その時神は人に奇跡を送りました。

知識の詰まった星を落としたのです。

そしてその星が落ちた場所から反転攻勢が始まりました。


人は悪魔を北に追いやりました。

しかし今度は神は悪魔に知恵を授けました。

悪魔に蹂躙される中、人は神に祈りました。

すると再び神は人類に奇跡を起こしました。

今度は二つの知識の詰まった星を落したのです。


人は再び反抗を始め、悪魔を追い出しました。

そして人は神に祈ることを覚えたのです。


「これが人類が生まれたとされる神話ね。私が少し覚えきれていないこともあるし、時代を経て意味が変わってしまったものもあると思うわ」

街を出たその日の夜、焚火で食事を温めながら、人類の成り立ちをクルトに教えている。

「知識の星を落としたってのはどういう事?」

「最後の二つの星のうち一つは、帝都、つまり世界で一番偉い人の住んでいる街の近くに落ちたそうよ。星が落ちた跡があるらしいけど、私も観たことが無いからどういうものなのかは分からないわ」

クルトはまだ理解が出来ていないようだ。

「帝都とかの話はまた今度してあげる。この神話は今人類が反映しているのは神様に感謝したからです。神様に感謝の祈りを捧げ続けましょう。こういう事よ」

「神様はどこにいるの?」

一番人々の関心があり、そして分からない事をクルトはしてきた。

「天啓の話はしたわね?今でも神様が私達に知識を与えてくれている。これは事実よ。でもどこにいるかは分からないの」

「星というのが神様だったとかなの?」

「そう唱えている神学者はいるけど、寺院はそれを否定しているわ」

「それで祈りと魔法がどう関わっているの?」

そう、私はクルトに魔法を教えるため神話を聞かせていたのだ。

「神に祈りを捧げていないと魔法が使えないと言われているの、その祈りというものがどういうものかを教えるために今の神話を聞かせたって事よ」

「どういう事?」

クルトはまだ納得がいっていないようだ。

「まず神様は存在する。そして魔法は信仰心によって発現できると考えられているわ。だから神様とはどういうものかあなたに感じてほしかったの」

そういうと私は剣を地面に置き、袋から木のボウルを取り出した。

「アクヴィ」

魔法を唱えると水が出てきてボウルの中に入った。

「おー、これが魔法なんだね!」

「これが一番簡単で威力も少ないんじゃないかしら」

そう言って私はもう一つの空ボウルをクルトに渡した。

「初めて使う魔法で注意しなければならないのは、どういう魔法でどういう威力か分からないって事よ」

「うん?」

「クルトに最初に見せた魔法が火をつける魔法だけど、これを誰もいない家の中で使ったらどうなると思う?」

「火事になるね」

私はボウルの水を飲む。

「そう、私はあえて畑に火を放って村人に消火作業をさせることにしたけど畑で魔法を使うのも危ないわよね」

「なるほど…」

「初めて使う魔法は何もない平原でやるのが良いわね、同じ魔法でも人によって威力が違う事もあるから」

「私が今の魔法でボウルに丁度いい量の水を出したけど、同じ言葉を使ったとしても水の魔法が得意な人はボウルにあふれかえる水を出せるわ」

「そういうものなんだね」

「だから魔法の練習は人のいないところで且つ安全な場所でやる事」

「分かった!」

「じゃあまずアクヴィという言葉の説明からするわね」

「うんうん」

クルトが若干前のめりになった。

「魔法の言葉、魔法語とか古代語ともいうわね、大体の言葉は二文字目か三文字目にアクセントをつけるの、この場合ヴの部分がアクセントね」

「アクヴィ、アクヴィ、アクヴィ」

クルトはアクヴィという言葉をただ繰り返している。

「今のは発音の話、そして今からやるのが魔力の話よ」

そう言って手を出した。

「魔力というのは一点に集中させる必要があるの、私の場合は中指に意識を持って行っているわ」

そう言って薪にするために集めていた一本の細い枯れ木をクルトに渡した。

「最初は木の棒の先に意識を向けてやってみなさい。あと魔法の練習をする時は剣は降ろしていいわよ」

「どうして?」

私はクルトに飲み残しのボウルを上げた。

「金属ってどういう訳か魔力に反応するみたいで、金属を持っていると魔法が発動できないのよ」

「そうなの?」

そう言いながらクルトはボウルの水を口に含んだ。

「どういう理屈で魔法が発動できないかはまだ誰も分かっていないんだけど、マギアクレスト鉱っていう鉱石でできた金属意外だと全く魔法が使えなくなるわ」

「マギアクレスト鉱?」

「大陸中央部にマギアクレストと呼ばれる広大な山脈があるのよ。そこで取れる鉱石で作った武具を付けていれば魔法行使が出来ると言われているわ」

「そんな便利なもの、世の中に存在するの?」

「皇帝、つまりこの世界で一番偉い人が持っている武具はマギアクレスト鉱で作られた装備らしいわ」

ベーコンとパンを食べながらクルトに言った。

「これから休憩する時にはアクヴォが上手に発動するように訓練しなさい」

「やってみるよ」

「すぐに出来るとは思っていないから無理しないでね」

こうしてクルトの魔法の訓練が始まった。


「魔力っていうのが良く分からないや」

移動をしている最中にクルトが聞いてきた。

「そうね、信仰心って話をしたけど、私は祈る時の集中に近いかしら」

「シャルロッテはすぐ魔法を使えるようになったの?」

「私は誰にも教えて貰えなかったから、書物を読み漁りながら二年くらいかかったかしら」

「僕もそのくらいかかるのかな?」

「私は魔力の使い方だけ全く分からなかったから二年くらいかかったけれど、流石にそんなにかからないんじゃないかしら?」

「寺院の神官とかに教えて貰う事は出来ないのかな?」

「難しいわね。ほら、火をつける魔法とかも使いようによっては凄い悪いことに使えるでしょ?」

「そうだね、すごく怖いね」

「だから外部の人間に魔法を教える事は厳しく禁じられているの。教えて貰えるとしたら、寺院じゃない組織になるかしらね」

「例えばどんなの?」

「私が良い例じゃない?」

「なるほど、旅人か」

「後は魔法を使える傭兵とかもいるからそういう人たちに教えて貰えるかもね」

「そっかー」

「時間が出来たらちゃんと探してあげるから、それまでは自分で色々頑張ってみて?」

「そうだね、頑張ってみるよ」


「あんた達噂になってるぜ、水を補給してくれるってな」

樽の中に魔法で水を満たす。

「その噂話に付け加えておいてくれるかしら?傭兵として雇い入れてくれる隊商を募集しているって」

「はははっ!傭兵を求めている隊商が居れば、声かけておいてやるからよ」

「助かるわ」

「じゃあ、少ないが取っておいてくれ」

そう言って銅貨を数枚受け取る。

しかし、中々傭兵として雇い入れてくれる隊商は現れない。

「今、遠征軍の話が上がってたりするから、物流も盛んになるんじゃないか?」

何人かの商人が、遠征軍の話を上げている。

「それ本当の話なの?確かに何人かそういう話を言っている商人はいたけど」

「前回の遠征軍が終わってから7年、時期的にはそろそろあってもおかしくないな」

「ねえ、遠征軍ってなあに?」

クルトは遠征軍という単語が気になるようだ。

「北の悪魔の地に帝国の軍隊が一挙に押し寄せて領土を広げようとする事よ。後で詳しく説明してあげるわ」

「この子も遠征軍に参加するのか?」

商人がクルトを見てそう言った。

「まだ分からないけど私は参加するつもりだから、そうなるわね」

そう言って私はクルトの方をポンポンと叩く。

「まぁ、遠征軍の通達があったとしたら他の商人が伝えてくれるだろう。道中気をつけてな」

「ありがとう、あなたこそ富の神リーチェの加護があらんことを」

そう言って隊商とは別れた。


「ねえ、遠征軍って?」

歩き出した途端クルトが顔を覗き込んでくるように聞いてきた。

「そうね、その説明をしないとね」

そう言ってクルトの顔を見ながら説明をする。

「さっきも言ったように帝国の軍隊が北とか北東の方の土地を自分たちのものにしちゃおうっていうのが遠征軍。前回が9年前だからあなたが生まれた年に行われたのよ」

「北って魔物が居ついているんだよね?」

「そう、この前話した神話の通り魔物を退治しましょうって話なのよ。それが9年前に始まって、7年前に終わったの。2年間攻撃し続けたって事ね」

「それでどうなったの?」

「私は前回参加していなかったから良く分からないのだけど、特に大きく領土を増やせたという話は聞かないわね」

「その…遠征軍?っていうのは何度もやられているの?」

「今まで何度も行われているわ。帝国の中に13の王国があったのだけど、一つ王国が増えたことだってあるのよ」

「そんなこともあるんだ」

「何回前の遠征軍なのか私も知らないんだけどね。カーティス王国っていうの。遠征軍が招集されるなら目的地はそこになるわね」

「僕たちはそこを目指しているの?」

「そうよ、今いるのがリーリエ王国で目指しているのはヴィスヘルムス領のビーフボウルって街。そこからさらに東を目指すとリズ王国、そこから北を目指してカーティス王国」

「なんか頭がこんがらがってきたよ」

クルトが頭を抱えている。

「そうね、旅を続けているうちに分かるようになってくるわ。きっと」

ポンっとクルトの頭に手を乗せて発破をかける。

「だからそれまでには武術も魔法もしっかりできるようになってもらうわよ」

「出来るかな?」

「大丈夫、私がついているから」

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