第51話 開発テスト 2 豪氏 剛機(ごうし ごうき)

 ゲートの前で、剛機がオートマのマガジンを抜いて、弾を確認、もう一度、挿入してスライドを引いている。


「それが試作のですか?」


 確認の手を止めて、隊員が剛機の手にあるオートマを見ていた。


「あぁ。弾だけだが。」


 ロックをかけ、バッグの横に取り付けてあるホルスターに放り込む。


「使わないんですか?」


 剛機は、別の隊員に頷く。


「本当に、試作で、弾数が少ないからな、ゴブリンで試そうと思っている。」


「射程が短いんですよね。近づかれて、危なくないですか?」


 頷き、苦笑する。


「仕方がないな。ただ、一人で相手をするわけではないからな、その分は危険は少ない。それよりは、同士討ちにならないことが重要だから、射程を短くしている。」


 心配そうに、一人が顔を上げた。


「やっぱり、接近戦になるんですね。」


 頷く。


「そうだな。いきなり近くに出現したり、距離が取れない部屋で対戦したりと、接近戦になる以外がないからな。」


「威力とかは、一発で倒せないんですか?」


 ため息をつき、はっきりと、剛機は答えた。


「倒せない。正直、この試作の弾だと、威力は半分以下だと思う。」


 隊員達は、心配そうに、互いに目を合わせる。

 剛機は、落ち着いた様子で隊員達を眺め、話を続けた。


「だが、距離が近くなるのと、貫通しないことで、多少は威力が上がるだろうし、さっきも言ったが、一人ではない、三人で撃てれば、三倍だし、五人なら五倍。大丈夫だ。」


 力強く頷く剛機に、隊員達の表情が明るくなる。


「そろそろ行くか。」


 剛機達は、ゲートをくぐった。





 バッグから取り出した盾を、左腕に装着する剛機。


「威力がはっきりしていないんですよね。」


 少し笑って答える。


「大丈夫だ。半分以下だとわかっている。十分だ。」


「倍に撃つことになりますけど、、、。」


 バッグの横のホルスターから、オートマを抜き取り、ロックを解除する。


「それはそうなる可能性が高いな。連射がないのはきついが、仕方がない。」


 剛機は、いったん、区切るように隊員達を見回した。


「大丈夫だ。それより、戦闘中に貫通弾を確認するのは難しいから、見ておいてくれ。なるべく見やすい位置に誘導するつもりだが、最悪、部屋に入って確認を頼む。その時は、近づきすぎないように注意してくれ。」


 そして、頷く隊員達に背を向けて、ボス部屋に入った。




「ギャエ。」


 走り出すゴブリンを、剛機は、ボス部屋の1/4程入ったところで待った。


「ガァ。」


 叫び、振り降りされる右腕を、斜め後ろに下がりながら、二回、躱す。


 と。


 次は、止まって盾で受ける。


 ガァウン。


 音とともに、剛機が下がると、ゴブリンは、合わせて前に出る。


「ギッ。」


 左腕を振り下ろすゴブリン。


 剛機は、盾で受けると同時に踏み出す。


 ゴブリンは、勢いに押され、下がり、丁度、隊員達が見ている通りの正面あたりで、横を向くことになった。


 一瞬、位置を確かめる為に目線を走らせる剛機。


 確認すると、少し下がって、ゴブリンの攻撃を促す。


 ゴブリンは、すぐさま、追うように右腕を振り下ろした。


 ガァウン。


 今度は、合わせて、ゴブリンの右腕を振り払う剛機。


 盾の脇に、ゴブリンの顔面が見えると同時に、銃口をゴブリンの額に突きあてた。


 パンパンパンパン


 瞬時に、銃声が鳴り、ゴブリンは、あっけなく消えていく。


 剛機は、息を吐くと、通りに向き直った。



「三発目で消えたように見えたが、どうだった?」


 特に息を荒げる様子もなく、ゴブリンが消えた時の様子を思い浮かべている剛機。


「確かに、三発目で消えました。それまでは、貫通はしていませんでしたが、消える時の四発目は抜けていました。」


 答える隊員に、剛機は、大きくため息をついた。


「そうか。不味いな。」


 隊員達は、不思議そうに剛機を見た。


「倍に撃つ必要がなくて、いいと思いますが、、、。」


 剛機は、顎に手をあてながら、難しい表情になっている。


「それはいいんだが、撃ち過ぎた弾が、外れ弾と同じになると言うことは、引き付けるために、一番近くで受け止めていた一人に、過剰分の弾があたってしまうことになるからな。」


「あぁぁ。」


「それは、、、。」


「確かに。」


 一斉に声を上げて、剛機のように、難しい顔をする隊員達。

 少し、重い時間が流れ、剛機が顔を上げた。


「一度、考え直す必要があるな。」


 頷く隊員達。


「後はどうします?」


「一応、クリスタルの回収命令もあるから、このまま、下まで行くとしよう。」

 

「ダンジョンレベルが2ですから、三層目ボスはゴブリンですね。」


「そうなるな。」





「さて、どうするかな。」


 二層目のボス部屋の前にたった剛機は、両手を腰に当てて、部屋の中央にいるゴブリンを眺めた。


「思ったんですが、弾数を数えておけば、撃ち過ぎることはない、と、思うんですが。」


 珍しく、頭を掻く剛機。


「そうだが、、、。流石に、ホブゴブリンを相手にして、数を覚えておく自信がなくてな。」


「あーーっ。そうですね。確かに、難しいですね。」


 以前のことを思い出し、頷く隊員。


「あぁ。しかし、そうなると、どうするか、だな。」


 剛機は、ゴブリンから目を離さず、顎に手を移した。


「どうしましょう?」


 隊員の声に、少し、沈黙を保ち、顎にあてていた手を下げる剛機。


「そうだな。今ここで、急いで答えを出す必要はないからな、後日にしよう。」


「わかりました。えっと、あれはどうします?」


 目線でゴブリンを指す隊員。

 剛機は、バッグから盾を取り出すと、副隊長になる彼に、差し出した。


「やってみるか?」


 いきなり目の前に出された盾と、声に、目を白黒させるも、数回、深呼吸をして、落ち着きを取り戻すと、彼は、頷いた。


「やります。」


 剛機は、ニヤリと笑うと、彼の肩を叩いた。


「あぁ。なに、大丈夫だ。こいつがあれば、負けることはない、それより、慣れるために、あえて、避けたり、盾で受けたりしてくれ。」



 彼は、盾を腕に装着し、腰のホルスターからオートマを抜き取ると、剛機を見た。


「こっちでいいですか?」


「あぁ。試作の弾は、威力の上下が大きいみたいだからな、普段のでかまわない。」


 頷くと、焦る様子もなくボス部屋に踏み込んでいく。


「大丈夫ですよね。」


 隊員の一人が、横で呟く。


「落ち着いているし、大丈夫だ。それより、お前たちも、後でやるんだぞ、よく見ておけ。」


 剛機の一言に、目を丸くする隊員達。

 しかし、すぐに頷く。


「了解です。」

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