第49話 修行に明け暮れる 10 調子は?
ボス、ゴブリンLeve2の爪が、ぎりぎをぬけていく。
「まだ足りない。」
呟いた三下は、距離をとった。
全力で走るのは、三回は確実にできるようになり、多少は、動きが早くなっている感じはあるものの、それでも、慎重を取ると、足りない。
慣れた動きで、数回下がると、急にゴブリンに背を向けて走り出し、そのまま、ボス部屋を飛び出てしまう。
「何だか、逃げ癖がついた気がするな。」
ボス部屋の中央に戻っているゴブリンLeve2を確認。三下は、ぼやいた。
「安全第一なんだけどな。」
特に、今日は、この後があるしな。
リュックを背負うと、次は、全力疾走。
一回、二回、三回、と走り、膝に手をあてて息を整えると、残った分で、四回。
後は、歩くより少し早い程度で走り、リポップしてきたスライムと落ち合うと、スライムを、殴り踏んでと、一層目のボス、ゴブリンLeve1のところへむかう。
一層目のボス、ゴブリンLeve1の二回目は、怪我さえしていなければ、ほぼ確実に、無傷で倒すことができた。
「多少、余裕ありだな。」
ゴブリンが消えた後、軽く腕を回す。
残りは、スライムを相手に、ゲートに向かうのみの為、そこまで体力は使わない。
ゲーム的に考えれば、体力も使い切ってから、休んだ方が成長が早いはずだ。
三下は、腕を組み、考えながら、リュックを背負うと、スライムを倒しながら、ゲートに向かった。
「連日現れるモンスター(総称)は、出現する場所の特定が難しく、被害は増える一方ですが、出現しているモンスターに対する、皆さんの意見を聞いてみました。」
スマートフォンに映るアナウンサーが、街の通りで誰かに声をかける映像が流れている。
綾夏は、それをため息交じりに眺めていた。
「正直、怖いのは事実ですが、どうしようもないと言うか、自衛隊、もっと頑張れとしか、、、。」
「今のところ、自分には実害がないので、言いようがないですが、注意は、、、。」
アナウンサーは、次から次へと声をかけ、それに答えていく街の人達。
「このように、大半の人が、モンスターに対し、恐怖、もしくは注意など、警戒感を持っているのがわかります。実際、電話や、街頭アンケートによる調査でも、ほぼ100%で警戒感を持っているとなっています。」
映る映像が、街からスタジオに切り替わる。
「誰もが気にしているのは当たり前になってますが、それに対して行動した、行動を考えている人の割合は、現在では二割ほどになっています。それについては、どう思いますか?」
司会者が、コメンテーターに話を振り、コメンテーターが頷き、話し始める。
「、、、。」
「お疲れー。」
はっと、顔を声に向ける綾夏。
三下が、片手を上げながら近づいていた。
「あっ。ごめん。いらっしゃい。」
綾夏は、慌ててスマートフォンのボリュームを下げた。
「忙しかった?」
心配そうにする三下に、綾夏は、首を振った。
「大丈夫。ニュースを見てただけだから。」
「そっか。悪いね。何か面白いニュースある?最近、全く見てないから、何にもわからないんだよね。」
綾夏は、思い返すように、目線を泳がせる。
「そうねー。最近は、あれのニュースばかりで、面白いのはないわね。」
肩を窄めながら答える綾夏に、三下は、一つ、息を吐いた。
「あれね。オークとゴブリンね。あんまり明るい話題じゃないね。」
「そうね。あれが壊されたとか、怪我人が何人とか、楽しくないんだけど、見ちゃうのよね。」
「不幸中の幸いは、この辺りはあんまり変わってない、ってところかね。」
綾夏が、少し、渋く、苦笑いをした。
「多少は、変わってるみたいなの。」
三下は、目を丸くした。
「えっ。どう言うこと?」
彼女は、ゆっくり腕を組んだ。
「何て言うか。配達の時、見たことがないナンバーの車をよく見るようになったわ、多分、下見に来てるんじゃないかしら。それに、荷物を渡すとき、実家に帰ってきてるらしい、若い人が出ることが増えてるの。大したことじゃないけど、この辺りでわかるぐらいの変化があるってことは、街では、見えないだけで、もっと変わってる気がするの。」
言い終わり、肩を落とす彼女に合わせるように、三下もため息をついた。
「動ける人は、既に、動いてるみたいだね。まぁ、そこまで急激に人が増えるとも思えないし。」
「かと言って、拒めないしね。」
人口が増えると、モンスター(オークやゴブリンの総称)の出現率が上がるとは言え、追い返すことは、当然、できない。
二人は、同時に、ため息をついた。
「どうなるかしら。」
綾夏が、心配そうに三下を見上げる。
三下は、首を振った。
「流石に、わからないけど、よくなるのは難しいと思う。後は、、、。」
「修業?」
不安に落ち込まないよう、持ち上げるべく、小悪魔な笑みをぎこちなくつくる綾夏に、三下は、笑顔で、
「そうだね。跳ね返せるように頑張るよ。」
親指を立て、ポーズして見せる。
「期待してるから。」
二人は、向き合って、笑った。
「そうそう。今日は?」
綾夏が、振り切るように、話題をかえた。
「レポート。何とか書いたから、持ってきた。」
すっと、綾夏の目に輝きが戻る。
「ありがと。出来栄えはどう?」
三下は、USBメモリを出しながら、頭をかいた。
「一応、頑張ったから、適当に書き直して。」
「ふふっ。楽しみね。」
「あんまり期待しないでくれると、助かるよ。」
「大丈夫。」
面白そうに、笑う綾夏。
三下が、その笑顔に見とれていると、綾夏は、次に、興味ありげに、鼻を出してくる。
「そう言えば、今日は、シップも、包帯もしてないようね。調子がいいの?」
困ったように、顎に手をあてる三下。
「どちらかと言うと、停滞中?」
「そうなの?」
「何て言うか、こう、、、。」
顎にあてた手の指を、トントンと動かして、考えた三下。
「薄い膜みたいのが、上手く超えれない?みたいな。」
「限界突破みたいになれない、てこと?」
「まだ、限界まではいってないと思うけど、そんな感じ。」
考えるように、綾夏は、こめかみに指をあてる。
「単純に、スランプ?」
「俺も、今思った。」
「、、、。」
ぺしっ、と、綾夏が、軽く三下の腕を叩いた。
「頑張って。」
「了解。」
と、綾夏は、不思議そうに首を傾けた。
「でもさ。筋肉痛も怪我も無い時に調子が悪いなんて、調子がよくなると、、、どうなるの?」
「、、、。」
黙って、明後日を向く三下。
「ちょっと。」
綾夏は、ムスッと、三下を睨んだ。
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