第48話 首相官邸 8
「彼が、退院しました。」
誰が、は、必要なかった。
栗夫は、少し目を細くしながら、顔を上げた。
「やっとか。」
「普通に考えれば、早いですよ。」
次官は、肩を少し上げて、栗夫を見た。
「期待より遅ければ、やっとだ。」
腕を組み、機嫌が悪そうに、ソファーにもたれる。
「どうしますか?」
「補充の隊員は選んだのか?」
「はい。まだ辞令は渡していませんが、選定は終わっています。」
栗夫は、考えるように、体をおこして、組んだ両手の上に顎をのせた。
「そうだな。まず、新しく編成した二班を、ダンジョンに慣れさせてくれ。」
少し驚いて答える次官。
「全部の大きさのダンジョンでいいですか?ホブゴブリンについては、、、。」
「待て。そうだったな。だったら、一番、ゲートのサイズが小さいのを、、、。面倒だな。一番、ゲートのサイズが小さいのをダンジョンレベル1、次を2。で、レベル1、と、2、だけを慣れさせてくれ。」
言い直す栗夫に、次官が頷く。
「わかりました。」
「期間は、三日もあればいいと思うが、一週間だ。それが過ぎたら、二班はそのまま、レベル1、と、2の攻略。一班は、渋谷ダンジョン、つまりレベル4でのクリスタル集めだ。」
「まだ、銃の開発が始まったばかりで、使えないですが、いいんですか?」
「最初に突入したときの方法で十分だ。本格的にクリスタルを集める必要はない、テストに使える量があればいい。」
「そう言うことですか、それなら、今の銃で大丈夫ですね。」
頷く次官に、栗夫が、スッ、と、目を鋭くした。
「のんびり開発していいわけではないからな、急がせてくれ。」
「それは、そうなんですが、、、。」
言いよどむ次官
栗夫は、更に目を細くした。
「なんだ。何か問題でもあるのか?」
「流石に、今までにないものなので、銃も、弾丸も開発となると、それなりに時間が必要だと聞いています。」
「どのくらい時間がかかるんだ?」
ため息をつく栗夫。
次官は、首を浅く振って答えた。
「不明です。」
栗夫は、不機嫌を顔に書いて、再び、もたれる。
「何か、方法はないのか?」
「今のところは、何とも。何しろ、口径すら決まってないですから。」
考えながら答える次官に、更に機嫌を悪くしながら、栗夫が適当に答えた。
「口径なんて、今使っているオートマのでいいだろ。」
次官は、はぁ、とばかりに、ため息をつく。
「威力がどのくらいになるのか、わからないですよ。」
「待て。」
突然、体をおこし、手を上げて次官を黙らせた栗夫は、腕を組み、頷くように首を縦に振りながら、ゆっくりと、ソファーに身をあずけた。
少しして。
「よし。まず、今のオートマの口径にあわせた銃弾で、指定の射程のをつくらせろ。」
「しかし、それでは、威力が、、、。」
次官が、焦った様子で答えると、栗夫は、また、手を上げた。
「いいから。威力が足りなければ、口径を大きくすればいい。」
当然のこと、と、答える栗夫に、次官は、ため息。
「銃が重くなって、取り回しが不利になります。口径によっては、普通の隊員では、撃つことさえ難しくなる可能性があります。」
ニヤニヤと、得意げに笑みを浮かべた栗夫。
次官は、怪訝に、それを眺めた。
「それは、大丈夫だ。何しろ、使うのは、普通の隊員じゃない。レベルアップした隊員だ。力も強くなっているから、多少、いや、あきらかに重くても、いけると見た。」
次官は、息を吐き、目を伏せた。
「自衛隊全員、レベルアップとなると、それなりに、時間が必要になりますが。」
栗夫は、おどけたように腕を広げ、肩を上げた。
「なに。急ぐ必要はない。それに、本当に、威力が少ないか、も、わからないしな。」
黙って、考える次官。
「距離が少なくなれば、火薬を少なくするでしょうから、威力は確実に落ちます。」
「接近戦用だから、的になる相手までの距離は短くなる。その分、見かけ上の威力はあがるはずだぞ。」
次官が黙り、栗夫も、口を止めた、暫く、二人は黙った。
「まぁ、どちらにしろ、現場のいないこちらが言っても、机上の話だ。しかし、これだけははっきりしている、私の責任だ。まず、今のオートマに使える銃弾で、距離が指定のものを作らせろ。命令だ。」
栗夫が、最終的な一言を発言すと、次官は、ゆっくり頷いた。
「わかりました。」
満足気に頷いた栗夫。
そして。
すぐに、眉をひそめた。
「それで、クリスタルの方はどうなっている?」
次官は、襟元を直し、切り替える。
「まだ、はっきりと結果が出ていませんが、思ったよりか、悪くないようです。」
「ほう。悪くないとは?」
前のめりになる栗夫。
「集めることができる数によりますが、スライムのクリスタルでも、ぎりぎり大丈夫そうだと聞いています。」
次官は、その栗夫をまっすぐ見ながら、落ち着いた声を出した。
「それはいいな。楽しみだ。」
嬉しそうにする栗夫に、次官は、怪訝な顔をした。
「あの。本当に、民間人にも協力してもらうんですか?」
「もちろんだ。」
迷いもなく頷く栗夫。
次官は、更に眉をひそめ、黙って抗議の目線を栗夫に、向けた。
「大丈夫だ。それに、利益が出るとなれば、尚更、その利益を政府が独占するわけにもいかないだろ。」
次官は答えず、ため息をついた。
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