第47話 修行に明け暮れる 9

 ゲートの前に立った三下は、一息つくと、あたりを見まわした。

 特に変わった様子もなく、空間に固定されて立っているゲートは、相変わらず黒かった。


 何だか、かなり久しぶりの気がする。


 ゲートを少し離れて見遣るも、急に、馬鹿らしくなった三下は、急いでゲートをくぐった。

 まだ、痛みはそこそこ残っているものの、この程度なら大丈夫だろうと、三下は、ダンジョンに来ていた。

 落ち着いて体を伸ばし、具合を確かめると、早速、奥へ向かい、最初のスライムに殴りかかった。


 ちっ。


 相変わらずの、二度踏み。

 体の痛みは残っているものの、動きは戻っている感じだ。


 しかし。


 あれだけ、痛い思いをして、変化なしかい。


 それが、三下の感想だった。


「全く、ゲームっぽく、何かあるかと思ったんだけどな。」


 ため息をつき、頭をかいてみても、変わることはない。


「まぁ。まだ一匹目だけどな。それに、運動不足が解消した、ってなら、次からか。」


 三下は、肩を竦めて歩き出すと、次を探した。




「さてと。」


 一層目、一回目のゴブリン。

 一声上げて、走り寄って攻撃してくるゴブリンに、あえて反撃しないで躱してみる。


「お。」


 軽い、とまではないものの、微妙に、動けている。

 確認のために、もう二度、躱してみる。


「気のせいではなさそうだな。」


 少し、三下のテンションが上がり、そのまま、いつものように逆関節からのコンボ攻撃で、ゴブリンを倒す。


「殴った回数も、少ない気がするな。」


 確かめるように、拳を握りなおしながら、三下は、もう少し、テンションが上がるのを感じた。


「いいね。」


 と、呟くと、更に奥に向い、いつもほどで、二層目のボス部屋の手前に着いた。


「お次は、っと。」


 呟く三下の前には、二層目の最後にいる、ボス、ゴブリンLeve2が、ボス部屋の中央に立っていた。

 顎に手をあて、挑戦するべきかを考える三下だが、急に、思いついたように息を吐いた。

 全身の力を抜きながら、髪をくしゃくしゃにして、頭をかく。


「考えてみれば、成績があるわけじゃあない。無理して少ない回数で勝つ必要もない訳で、て、ことで、勝てるまで、様子を見ながら逃げてもいいわけだ。」


 二度ほど頷き、軽く手足を振って、ボス部屋の中央に立っている、ボス、ゴブリンLeve2、へ向った。


 ゴブリンが走り出す。


 三下は、慎重にタイミングを合わせて、攻撃を躱す。


 先日よりかは、余裕があるのは間違いないが、踏み込んで仕掛けるのは難しそうだった。


「まだ足りないか。」


 始めからほぼ逃げるつもりの為、心理的には余裕がある三下は、壁との距離を見ながら、ゴブリンの攻撃を躱しつつ、考える。

 

 と。


 いきなり、右足で、以前の、ゴブリンが振り下ろした腕を蹴りこむを実践する。


「ギャウ。」


 勢いで、自分に爪が突き立ったゴブリンが声を上げる。


 が。


 ミスった!


 いつもより距離をとっていた為、腕を押し込むために、足を伸ばし過ぎたのだ。


 重心が前に出過ぎて、足を引き戻せない上に、大股になってしまっている。


 つまり、このままでは、ゴブリンの左腕の攻撃が躱せれない。


「うぉぉぉぉ!」


 無慈悲に近づいてくるゴブリンの左腕。吠えた三下は、後ろに残っていた左足で、思いっきり踏み切きった。


 同時に、体を丸め、右肘を前に出すようにして、側頭部にあてる。


 ゴブリンの左腕が、三下の右腕に重なるようにあたり、その手の爪が上腕に刺さる。


 痛みと、血が滴る感覚。


 しかし三下は、右腕はそのまま無視して、近すぎて伸ばせない左腕の手を、ゴブリンの顔面に押し付けた。


 すぐさま、右足を下に叩きつける。


 勢いで体を捻り、左腕を合わせて伸ばして、ゴブリンを突き飛ばす三下。


「アグ。」


 頭部を勢いよく押されたゴブリンは、仰向けに倒れこんだ。


 三下は、迷わず走り出し、ボス部屋を飛び出した。 




 振り返り、ゴブリンが部屋の中央に戻っているのを確認すると、三下は、一息ついた。


「そう簡単にはいかないか。」


 微小は成果が出ていることに、テンションは上がっていたが、予想通りの結果に、落胆を感じる。が、無理をするところではない、と、割り切る。

 肩の傷の手当てをした三下は、ゆっくりと動かして、調子を確認する。


「いけないことはないな。」


 傷は、幸い思ったほどではなく、動きに支障は感じられない。

 三下は、リュックを背負った。


「さてと。次は、全力疾走で行くか。」


 走り出した三下は、一気に速度を上げて、とにかく、全速力で走ること、二回。

 息を荒げながら、フラフラと走ることになっていた。


「もう一回。」


 早く走れるようになることが、素早く動けるようになることに直結してそうだと思った三下は、息を整えると、もう一度、全速力に挑んだ。 




 一層目、二回目の、ボス、ゴブリン。


「全く、一回目は多少余裕が出てきてるのに、二回目は、余裕がないのばかりだぜ。仕方がないけどさ。」


 軽く愚痴ると、右肩の包帯と、調子を確認する。


 動きはともかく、痛みで力が落ちそうだな。


 スライムならともかく、ゴブリンには考慮した方がよさそうな為、覚えておくことに。

 一通り気の済んだ三下は、ボス部屋に立つゴブリンに目を向けた。


「行くとするか。」


 迫るゴブリンの最初の一撃を、試しに躱す三下。


 流石に、三度の全速の全力疾走と、疲労、肩の傷もあって、動きは鈍くなっていが、


「大丈夫だろ。」


 三下は、まずはフックで様子を見ることにした。


 ゴブリンが、右肩を引くのを確認して回り込み、左のフックを叩きこむ。


 反対。


 その時、肩の傷の痛みで僅かに動きが鈍った。


 いかん!


 その僅かに、ゴブリンが僅かに体の向きを変えていて、右腕を振り下ろそうと迫ってくる。


 かまわず、右のフックを放つ三下だが、力がのらない。


 ゴブリンは、左肩に拳を受けながらも姿勢を崩すことなく、右腕を下してくる。


 必死になって、体をひねる三下。


 爪が、左肩を掠めていく。


「くっ!」


 三下は、離れず、ゴブリンを突き放す為に、引いた左の拳でゴブリンの顔面を殴った。


 しかし。


 姿勢が悪い。ゴブリンは、下がることなく、左腕を振り下ろしてくる。


 咄嗟に、右腕で、ゴブリンの左腕を受ける三下。


 互いが停止する。


 一瞬早く三下が動き、左膝で、ゴブリンの顎を蹴り上げる。


「アグゥ。」


 ゴブリンの顔が、強制的に上向きになり、三下は、そこに、右の拳を叩き落とした。


「ギャブゥ。」


 ゴブリンは、叫び、倒れそうになりながらも、右手をついて、そちらに回転して離れようとする。


 三下は、追って、立ち上がろうと、両手をついているゴブリンの脇を、横から蹴り上げた。


 が。


 ゴブリンが、その勢いを使って、下についていた右手を、逆手に振り上げる。


 三下は、避けれず。ゴブリンの爪が、足に傷をつける。


「てっ!」


 かまわず、蹴られた勢いと、逆手に腕を振り上げた勢いで、今度は仰向けになって倒れているゴブリンに、もう一歩、踏み込んだ三下が、顔面を踏みつける。


「、、、。」


 ゴブリンは、消えていった。


 三下は、ゆっくり、息を吐き、リュックに向かった。

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