第45話 一休み 1

 三下は、いつも程の時間に目を覚ますと、ゆっくりと、体を起こした。


 相変わらず体中が痛いけど、昨日よりはいいか。


 前日、莉子を送った後から、更に体中の痛みが酷くなり、どうにもダンジョンは無理だ、と判断して、部屋に着くなり寝てしまったのだ。

 頭をかきながら立ち上がると、腕に貼られたシップに目がいった。


「そろそろ、交換しておくか。」


 一人呟きながら、ぎこちなく、新しいシップを取り出し、張り替えていき、


 ふぅ。


 終わったところで、息を吐いた。


 効き具合の差ねぇ。


 シップのレポートのことを思い出し、体を動かして、左右の差を確認する。


 右の方が、痛みのひき具合がいいな。でも、ちょっと怠い。左は、右ほどではなくても痛みはひいてる。けど、怠さはあんまりないな。


 一通り、体を伸ばして確認する。

 そして、PCの電源を入れてると、忘れないうちに感想のメモをとった。


 後は、、。


 意味もなく、部屋を見回す。

 三下は、踏ん切りがつかず、多少、無理にきつくてもダンジョンに通っていたが、綾夏の一言もあって、一日、休みにしようと思っていた。


 休むのは決めていたけど、何をするかは、考えてなかったな。


 暫くボーっとする。


「もう少し寝よ。」


 三下は、再び、布団にもぐりこんだ。




 昼を過ぎたあたり、三下は、金物屋に向っていた。

 とりあえず、先日の スナック 黄昏 以降の話がどうなったかを、亭主に確認しようと思ったからだ。


 店の扉をくぐり、奥にあるレジへ向かうと、


「お疲れさん。」


 レジには、亭主の娘の方が待っていた。

 彼女は、先日のコンビニっぽい笑顔ではなく、自然に笑顔をつくった。


「お疲れ様です。今日は?」


 三下は、流石に、驚くことはなく、亭主を探して周りを見回した。


「いや。特にないけど、親父さんは?」


「ごめんなさい。朝から出かけたんです。多分、夜まで帰らないと思います。」


「あっそうなんだ。じゃあ仕方ないか。」


「急用でしたら電話しますけど、、、。」


 心配そうに上目使いで見上げる彼女に、三下は、軽く手を振った。


「いいよ。時間ができて、暇だから話でもしようと思っただけだから。」


「すいません。」


 彼女が、もう一度、頭をさげ、三下は、また、手を振った。


「ほんと、いいよ。また来るから、よろしく言っといて。」


「わかりました。言っておきます。」


「よろしく。」


 三下が、向きをレジから外へ向けた時、後ろから、再び声がかかった。


「あーっ。あのっ!先日はありがとうございました。」


 何事、と、レジへ振り返る三下に、またもや、頭を下げる彼女。 

 三下は、思わず、頭を掻いた。


「えっ?お礼を言われるような事って?」


 意味がわからず、顔に、不思議、と、書いて見つめる三下に、彼女は、うつむき加減に答えた。


「あの。ハンカチのことなんですけど。」


「ハンカチ?あぁ、あれね。そんな、礼を言われるようなことじゃないけど。」


 先日の一連を思い浮かべて、意味を理解した三下は、戸惑うように、苦笑する。


「でも。あのハンカチ本当に気に入っていて、それに、薄くても黒い染みが残ったりしたら、かなりショックだったと思うんです。実際、タオルを洗った後、薄く黒い染みが残ってて、ゾッとしましたから。」


 多分、染みが残ってしまったハンカチを想像しているであろう彼女は、何とも言えない表情で、肩を窄めてた。


「まぁ。ハンカチが汚れなくてよかったよ。タオルは悪いことしたね。」


「いえ。タオルはどうでもいいんで、大丈夫です。」


 彼女は、本当にタオルはどうでもいいらしく、バッサリきって答えた。

 そして、少し、首をかしげる。


「でも、その。よく気が付きましたよね。男の人って、そうゆうのは関心がないかと思ってたんで、驚きました。」


 好奇心にひかれた彼女の表情に、三下は、少しの照れと、苦笑で答えた。


「まぁ。無駄に長く生きてると、いろいろ身につくんだよ。自分の場合は、一人自炊歴も長いしね。」


 彼女が、クスクスと笑ってみせる。


「何だか、おとーさんみたいなこと言うんですね。若そうなのに。」


「、、、。」


 三下が、急停止した。


「?」


 彼女は、不思議そうに三下を覗く。


「あのーー?」


「あっ。ごめん。」


 スイッチが入った三下が、勢いよく頭を掻き、慎重な面持ちで、彼女を見た。


「あーーー。俺さぁ。親父さんより年上なんだよね。」


「え?」


 交代するように、彼女が急停止。


「年上。」


 自分を指差す三下。

 慎重な面持ちになった彼女は、呟くように、三下を仰ぎ見た。


「年下、、ですよね。」


「ごめん。上。」


 ゆっくりと、彼女の顔が赤くなり、それに従って、俯いていく。


「ご、ごめんなさい、、、その、てっきり、年下だと、、、。」


 うつむいたまま、黙ってしまった彼女に、あたふたと答えを探した三下は、何とか声をひねり出した。


「えーー。あー。ありがと、で、いいと思う。最近、年相応で見られてたから、若く見てもらえたら、その、ありがと。だから、その、そんなに気にしなくていいから。」


「はっ、はい。でもその、幼く見えた、とかじゃないですから、その、とにかく、若く思えた、て、だけですので。」


「大丈夫。」


 三下は、適当な答えを、自信をもって勢い伝え、彼女を強引に納得させると、後ろ手に手を振って、ぼろが出る前に、急いで店を出た。

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