第38話 修行に明け暮れる 8

 戻りの、二回目になる一層目のゴブリン


 三下は、走りくるゴブリンの右腕を逆関節に決め、素早く離れた。


 ゴブリンの、左腕の攻撃は、ぎりぎり、三下にあたることはなく抜けていく。


 三下は、すぐさま、左腕も逆関節を決め、殴る蹴るのコンボで、ゴブリンを倒した。


 数日間、たまに、スライムに絡みつかれながら、とにかく走っていた三下は、多少、体力がついたのか、遅くなるのは少なくなっていた。


「早くは、なってないんだよな。」


 数日前の、二層目のボスゴブリンを思い出しながら、リュックを背負う三下。

 走ってくる、二層目のボスゴブリンは、早いとは言えない。


 まぁ、遅い。


 が。


 一層目のボスゴブリンよりは、早い。


 負傷覚悟なら、勝てないことはないんだけどな。


 こちらを倒すことだけに特化しているゴブリンは、基本、自爆攻撃で、こちらの攻撃を受けながら、反対の腕で攻撃をしてくる。

 その為、無傷で倒すには、倍、は必要なくても、それなりに早く動けないといけない。


 何とかして、早く動けるようにならないと。


 飛び上がってくるスライムを、殴っては、二度踏み。

 ちなみに、スライムを倒すのも、走って下半身が安定したせいか、二度踏みしなくても倒せる回数が増えていた。


 ふぅーー。


 ゲートの前まで戻ってきた三下は、もう一度、奥へ目を向けた。

 リポップには一時間ほどの為、暫くはスライムが出ることはない。

 考えがないわけではない。

 単純に考えれば、誰でも思いつく。


 体力的にも落ち着いたみたいだし、やるか!


 三下は、奥に向かって、全力でダッシュした。



 何でもいいから、動ける限界の速さで走れるだけ走る。

 つまりは、早く体を動かすことができれば、走る限界の速度も早くなる。

 

 二回目。


 三下は、既に息が上がっていた。


「思ったより、かなりきついぞ。これ。」


 立ち止まって、頭を下げて、膝に両手をあてて、息を整える。

 数秒、全力で走る、それを二回だけで、膝が笑い気味。


「行って、戻ってだけど、二回全力だけでこれとはな。」


 息が落ち着いた三下は、少し、奥に行くか迷った後、ふらふらと奥に走って、すぐに止まり、また、息を整えると、ゲートに戻って外に出た。

 


 部屋に戻った三下は、体の微妙な具合に気が付いていた。


「こりゃあ、明日は大変そうだ。」


 そうだ。丁度いいかもな。


 三下は、用意してあったシップを貼り付け始める。


「右と左で、別のやつ。だったな。」


 綾夏に頼まれたレポートの為に、分けて貼るのもしっかりと実行したのだった。

 


 次に日。

 思った通りに、筋肉痛になっていた三下は、一回目のゴブリンを、かなりぎりぎりで倒すも、体力の付き具合から、二回目もぎりぎりで大丈夫だろうと、二層目のゴブリンまで行った。

 そして、全力でダッシュを二回。

 一層目のゴブリン、二回目に来ていた。

 戻る途中から、筋が張り出し、体の痛みが増した上、筋が張り過ぎて、かなりの重しを背負ったかのように、重い体になって。


 これは、かなりの覚悟だな。


 筋が張り始めた後は、スライムも叩き落としでぎりぎりになり、今は、リュックを下すのさえ、苦労している。

 三下は、少しでも、筋の張りをもどすために、できうる限りの柔軟を行った。


 とにかく、倒せば何とかなる。


 ゴブリンが、両手を上げて、走り出した。



 やっぱりか!


 攻撃の左右を確認しないで、早めに動き出していても、体を引っ掛けていく、ゴブリンの爪。


 ゴブリンは、腕を振り下ろしたところで、一瞬停止し、すぐに腕を振り上げ、走り、


「アギャー!」


 気合とともに、左腕を振り下ろしてくる。


 こうなったら!


 三下は、最後の覚悟を決めた。


 体に傷跡を残しながら、下がっていくゴブリンの腕にタイミングを合わせて姿勢を準備。


 左腕が下がりきったところで、その腕を踏みつけるように蹴り飛ばす三下。


 踏みつけるようになったのは、単に足が痛みと重さで上がらなかった為だ。


「ギャウ!」


 しかし、腕が勢いよく体に押し付けられた為、自分の爪で、自分を刺してしまうゴブリン


 三下は、そのまま踏み込み、ゴブリンが振り下ろしてきた右腕の手首を肩に受けながら、右肘でゴブリンの顔面を叩く。


「キィィー!」


 ゴブリンは、自分の顔を叩いた勢いで離れようとする三下に、下がっていた左腕を伸ばすように振り上げる。


 下がりきれない三下は、またもや、爪に引掛けられる。


 くっ!


 すぐさま、踏み込みながら、右腕を振り下ろしてくるゴブリンに、避けられない、と、判断した三下は、右で突きながら前に出る。


 ごっ!


 右拳が、ゴブリンの顔面に突き立つと同時に、三下の肩に、ゴブリンの右爪の腹があたり、鈍器で殴られたような衝撃が伝わる。


 無視して、左の突きを、ゴブリンの脇に叩きこむ三下。


 押し切ろうと、体重をかけていたゴブリンは、肩口に拳を受け、姿勢を崩すも、左腕で攻撃しようと動き出す。


 それも無視して、右の突きで、ゴブリンの顔面を殴るろうとする三下。


 同時に。


 三下の拳は、ゴブリンの顔面。


 ゴブリンの左の爪は、三下の右肩と腕。


 に、接触する。


 が。


 姿勢を崩していたゴブリンは、更に姿勢を崩してしりもちをつく。


 いつもなら離れる三下だが、今の自分では、既に迫っているゴブリンの右の爪は、躱せれない、と、判断していた為、勢いのままに、右足で、思いっきり、ゴブリンの顔面を蹴り飛ばす。


 ゴブリンの爪は、三下の右のふくらはぎを傷つけていく。


 三下は、振り切ったところの、一瞬の停止のうちに、何とか足を引く。


 ゴブリンが、しりもちをついた状態でも、左腕を伸ばしてくる。


 三下は、傷ついた右足で、ゴブリンの左肩を狙った。


「アゥ。」


 肩を蹴られたことで、攻撃も封じられたゴブリンが、仰向けに倒れる。


 三下は、また離れず、おろした右足を軸に、左のかかとでゴブリンの顔面を踏み抜く。


「ウギャゥ!」


 ゴブリンの苦し紛れの右の攻撃が、左のすねを傷つけるが、無視して、もう一度、ゴブリンの顔面を踏み抜く三下。


 ゴブリンは、次に出していた左の攻撃が、三下にあたる寸前で消えていく。



「、、、、、、、。」


 真っ白になって、止まる三下。



 暫くして、ギクシャクと動き出した三下は、クリスタルを拾い、リュックを手に、ゲートに繋がる方の通りに移動すると、傷の手当てを始めた。

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