第37話 装備開発 2 豪氏 剛機(ごうし ごうき)

 装甲車が本部の前に停車して、剛機と、隊員一人が降りた。


「こちらです。」


 前を歩き出す隊員について、剛機も歩き出した。

 暫く建物の中を移動し、第三会議室の前で、隊員は、足を止めた。


「お連れしました。」


 ノックし、要件を言ったところで、扉を開ける隊員。


「どうぞ。」


「あぁ。ありがとう。」


 剛機が、会議室に入ると、隊員は、一礼して、扉を閉めた。

 部屋には、左手側、手前に、如何にも研究者風の四人が座っていて、奥に、書記の隊員、更に、隊員の後ろに二人、役所からの派遣らしい人物が座っていた。

 剛機は、研究者風の四人の向かいにある、一つだけの席へ座った。


「すいません。怪我をして療養中のところを。」


 四人の、リーダーらしい一人が立ち上がっていた。


「いゃ。かまわない。こっちの方こそ、急な話にあわせてもらって、感謝している。」


 剛機の態度に、多少、組みやすさを感じたのか、リーダーの男が、胸を撫で下ろしている。


「動画の方は?」


 剛機が来るまでの間に、ホブゴブリンと、ゾンビの動画を確認してもらっていたのだ。


「一応、一通り。よく、ご無事で。」


 素直に、驚きと、感嘆の含んだ言葉に、剛機は、苦笑した。


「あぁ。ありがとう。ゾンビはともかく、ホブゴブリンについては、本当に、ギリギリだったからな。」


「新しい武器は、ホブゴブリンがメインターゲットになるんですか?」


 リーダーの問いに、剛機は、軽く首を振った。


「いゃ。ホブゴブリンとゾンビには、共通の二つの問題があると思っている。新しい武器は、その二つを解決するものを頼みたいと思っている。」


 顔を見合わせる四人。


「ゾンビに対しては、十分に効果を発揮していると思えますが、、、。」


 リーダーの不思議そうな表情に、剛機は、続けた。


「ゾンビが、リポップしているところは?」


「見ました。急に現れて、噛みついてくるところですよね。」


 動画の内容を、思い出すようにして答えるリーダーに、あぁ、と、剛機は、軽くうなずいた。


「頭部に撃ち込んで、簡単に倒していたように思いますが、、、。」


 もう一度、頷く剛機。


「倒すのはそれでいいが、問題は、その後にある。」


「その後ですか?」


「あぁ。」


「倒した、後、と、言うことですか?」


「簡単に言ってしまえば、貫通弾や、流れ弾が問題だと思っている。」


 またもや、顔を見合わせる四人。


「どういうことでしょう?」


 頷きながら、身を乗り出すようにして、机に肘をつく剛機。


「動画ではわかりにくいと思うが、ホブゴブリンやゾンビを撃った弾は、ほぼ全てが貫通してしまっている。」


「そうですね。距離が近いですから、そうなると思います。」


 答えるリーダーに合わせて、頷く四人。

 剛機も、頷く。


「貫通した弾は、その後、どうなると思う?」


「それは、、、。」


「そうだな。動画では我々しかいないが、これがもっと大人数で、常に誰かが射線上にいる状況だとしたら。」


 四人の表情に、理解の色が浮かび上がる。


「あたりますね。」


 リーダーが、ポツリと呟いた。


「間違いなく、誰かにあたる。」


 剛機は、続けた。


「ゾンビは、動作が異常に遅くても、リポップする時は、いきなり現れる。その時、咄嗟に射線上に誰もいないことを確認して撃つのは難しいだろうし、そもそも、人数がいて、ばらばらに立っていた場合は、射線上から誰かがいなくなることが無い。となれば、撃って貫通した弾は、必ず誰かにあたる。当然だが、銃の威力から考えても、致命傷の可能性が高い。」


「防弾チョッキを着ていても、この距離ではわからないですしね。」


「体を撃つならそうなるが、俺がやったように、頭部を撃った場合は、射線の高さは、頭部の高さになるから、あたるのは、誰かの頭部だ。」


「、、、。死にますね。」


 剛機と、四人は、ほぼ同時に頷いた。


「他の国が、大部隊を送って、大量の重傷者や、死者を出した理由がハッキリとわかりました。」


 剛機は、苦笑した。


「ほぼ間違いなく、同士討ちだろうな。」


 リーダーも苦笑した。


「軍が、失敗した理由を異常なまでに隠すのもわかりますね。」


 剛機が、肩を窄めた。


「軍が、失敗した理由を隠すのは、多分、理由がわからないからだ。」


「理由が、わからない?」


「そうだ。多分だが、俺は、気が付くまでもなく、あっという間に全滅したと思っている。」


 信じられない、と、四人が剛機を見た。

 息を吐く剛機。


「ゾンビのリポップは、本当に、いきなりなんだ。しかも、死角に現れる。」


 四人は、小さく頷く。


「気が付いた兵士は、当然、ゾンビに向って、銃を乱発するだろう。しかも、かなりの数を撃たないと倒れないから、かなりの数を撃ち込むことになる。」


 誰かが、息を呑む。


「そして、その、かなりの数の弾は、全て貫通して、周りの誰かにあたる。」


「、、、。」


「一ヶ所だけじゃない。複数個所で、いきなりだ。」


「、、、。」


「間違いなく、最初のリポップで、突然、大規模な同士討ちになって、それに気が付くまでもなく、全滅。だと思っている。」


「俺は、だがな。」


 リーダーが、俯き加減に呟く。


「間違いないでしょうね。」


「まぁこれが、刃物や鈍器で、攻撃範囲が確実に区切れるものなら、こんなことにはならなかったと思うんだがな。」


「それは、言えてますね。」


 剛機は、頷きつつ、もう少し、身を乗り出した。


「そこで、考えてほしい銃の仕様だが。」


「ホブゴブリンは、いいんですか?」


 リーダーではない、一人が声を出した。


「そうだな。三人程で、ホブゴブリンを囲んだところを考えてみてほしい、今の銃では、間違いなく、同士討ちになってしまうから、その点では、ゾンビと同じ仕様でいいことになる。」


「具体的には、どんな仕様を考えているんですか?」


 リーダーを見る剛機。


「上手くできるかわからないが、まず、射程距離を五メートルぐらいにしてほしい。」


「それは、、、。かなり近いですね。」


 かなり、目を丸くするリーダー。


「銃口を、相手に押し付けるぐらいに近づいての戦闘になるから、命中精度は無しに近くてもかまわない。」


「他には、、、。」


「貫通しない。できうる限り、衝撃を相手に伝えたいし、後ろで囲んでいる仲間に貫通して当たっていては、意味がないからな。」


 ゆっくりと、四人を見回す剛機。


「後は、連射だな。頼めるか?」


 リーダーが、歩み出て、剛機の前に手を出す。


「やってみます。」


「頼んだ。」


 剛機は、しっかりと、リーダーの手を握った。

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