第36話 装備開発 1 豪氏 剛機(ごうし ごうき)
銃弾があたるのを無視して迫る来るホブゴブリン。
肩に突き立つ爪。
攻撃を、銃身で受け、引き金を引く。
後は、、、。
「やっぱり、ここにいましたね。」
剛機が声に気が付くと、既に、目の前に看護師が、仁王立ちしていた。
「豪氏さん。何度か言いましたが、トレーニングは許可されていません。禁止です。」
数日前の戦闘で負傷した剛機は、理由はともかく、入院させられていた。
今は、リハビリ室に併用されているトレーニングルームにいる。
「あ、、。」
我に返った剛機が、看護師を見上げる。
彼女は、かなり、怒り心頭状態だ。
「あー。すまない。怪我をしていないところならいいかと、、、。」
素直に、すまなそうにする剛機。
「今は、トレーニングそのものの許可が無いので、禁止です。それは、先生に確認してください。」
「では、次の診察の時に確認すれば、、、、。」
「今日が、その診察日です。先生がお待ちです。」
「そうか、すまない。忘れていた。」
急いで立ち上がろうとする剛機に、少し下がって場所をあける彼女。
「こちらです。ついてきてください。」
剛機が手にしていたダンベルを戻すのを確認すると、前を歩き出す。
「何度か放送で呼んでいるはずですが、、、。」
「すまない。集中していると、たまに聞こえていない時があって、、。」
時折、後ろを見ながら、結構なスピードで歩く彼女の後ろを、剛機は、普通についていく。
やがて、いくつもある診察室の一つの前につくと、彼女が振り返った。
「ここで待っていてください。すぐに呼びますので。」
「わかった。」
剛機は、敢て座らずに、横の壁に背中を預けた。
診察室では、女性が椅子に座って、モニターを見ながら、キーを叩いていた。
白衣に身を包んだ彼女は、小柄で、線が細く見えるが、性格は、豪胆寄りだった。
「また、トレーニングをしていたみたいですね。」
剛機に向き直った彼女は、強そうな意思ののった目を、面白そうに細くしている。
「すまない。怪我をしていないところならいいかと、、、。」
剛機は、軽く肩を窄めた。
「いいですよ。とりあえず、その話は後にして、上着を脱いでもらっていいですか?診察をしますから。」
「わかった。」
彼女は、剛機が上着を脱ぎ始めると、横にいる、先程、剛機を呼びに来た看護師を見る。
「包帯を外して、傷口が見えるようにしてください。」
看護師は頷き、剛機の脱いだ上着を受け取り、かごに入れると、彼の後ろに回った。
「包帯を外します。ガーゼを外すときに、少し痛いと思いますので。」
「あぁ。大丈夫だ。」
「やっぱり、傷の治りは早いみたいですね。」
傷口を念入りに確認した彼女は、端末のキーを叩き、呟いた。
「それは、助かるな。」
看護師に包帯を巻いてもらいながら、剛機が答える。
「まぁ。そうなんですが。」
「何か、気になることでも?」
そこに、包帯を巻き終わった看護師が上着を持ってくる。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
看護師から上着を受け取り、着込む剛機を、彼女は、考えるように眺めた。
「トレーニングの許可の前に、確認しておきたいんですが、豪氏さんの立場です。」
不思議そうに首を傾げる剛機に、彼女は、僅かに苦笑した。
「はっきり言えば、レベルのことなんですけどね。」
「あぁぁ。」
「とにかく、豪氏さんは、現状において、確認されている、たった一人の最高レベル保持者なんですよ。しかも、他の国が、ダンジョン攻略の失敗で、レベルアップ者の確認が全くないとなると、世界的にも豪志さんしかいないんですよ。ですから、何かあった時の責任をどーするんだ?と、いう問題が残るんですよ。最悪、国際問題じゃない?と、病院側は考えています。」
剛機は、少し目を大きくして聞いていたが、肩を少し上げた。
「そこまでのこととは、思えないが、、、。」
「私も、そう思ってます。ですが、病院の立場もありますので、理解をしてもらえた上で、無理をしない、と、約束してもらえるのであれば、トレーニングについては、許可を出します。勿論、怪我をしているところは、駄目ですよ。」
「わかった。そんな簡単なことなら、約束する。ありがとう。」
「いえ。次の診察日は、また連絡しますので、今日は、お疲れ様でした。」
剛機が診察室を出ると、待っていた病院の職員が声を掛けた。
「豪氏さん、自衛隊の方がきています。お時間は大丈夫ですか?」
「勿論、大丈夫だ。」
「では、ついてきてください。」
職員は、個室に区切られた、談話室の前で止まると、扉をノックした。
「どうぞ。」
職員が扉を開け、中に入る。
「お連れしました。豪氏さん、どうぞ。」
「ありがとう。」
扉を開けている職員に、礼を言って、剛機が部屋に入ると、中で、二人の隊員が、席を立った。
「いいぞ。座っていてくれ。」
片手で二人を制しつつ、剛機が椅子に座ると、職員が続けた。
「私は、失礼します。話が終わった後は、こちらに一報する必要はありませんので。ゆっくりとどうぞ。」
「わかった。ありがとう。」
もう一度、頭を下げた職員は、扉を閉めた。
「どうなった?」
前のめり気味に聞く剛機に、一人が答えた。
「書類の審査が終わりました。ダンジョン専用の装備の開発は、正式な許可になります。」
「そうか、妙に早いから、何か問題があったかと少し心配した。」
体をおこし、ホッとしたように肩を下げ剛機に、二人が苦笑する。
「どうやら、クリスタルの方にも進展があったらしく、政府が、かなり急がせたみたいです。」
「そうなのか。とりあえず、協力的なら構わないな。」
多少、気分よさげにする剛機に、小さく、申し訳なさそうに、一人が声を出す。
「あのぅ。」
「どうした?」
「実は、東京本部に、開発協力会社の方が呼び出されていまして、、、。」
「つまりは、俺を連れてこい。と、言われているんだな。」
「はっ。はい。本当に、急で申し訳ないんですが、、、。」
少し黙る剛機に、青くなって黙る二人。
「おっと。大丈夫だ。行くのはかまわない。ただ。そこまで押してくると言うことは、相当、クリスタルに価値があったんだな。と、思っただけだ。」
同行の同意が取れたことで、一気に、二人の顔色が好転する。
剛機は、その二人を眺めながら、立ち上がった。
「外出の許可をもらってくる。待っていてくれ。」
ガタガタと、慌てて二人が立ち上がる。
「そのくらいは、こちらで、、、。」
「いや。今は、色々と面倒だからな。俺が行った方が確実だ。待っていてくれ。」
二人を座らせて、剛機は談話室を出ると、先程の診察室の横にある受付に向かった。
「すまないが、いいだろうか?」
覗き込むように、一番手前に座っている看護師に声をかける。
「豪氏さん。何か気になることでもありましたか?」
彼女は、少し心配そうに、気遣いを忘れない笑みを返す。
「外出許可をもらいたいんだが。」
相当意外だったのか、驚く彼女。
「今からですか?」
「あぁ。すまない。」
「ちょっと待ってください。」
すぐに、奥へ消えていった彼女は、程なくして戻る。
「アルコールは摂取しない、無理はしない、今日中にこちらに戻る、ということでよければ。」
「約束しよう。」
「では、もう少しお待ちください。」
彼女は席に着くと、仮カードを取り出し、端末に入れ、何やら入力する。
「こちらは、受付が終わってから戻った時に必要になるカードです。無くさないように持っていてください。」
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